起業直後から必ず蓄積されていくデータとして販売データがあります。特に起業してから数か月経過してひとつの壁にぶつかったとき、「なぜ売れたのか」「なぜ売れなかったのか」などが、非常に気になる時期があります。そんなとき、その数か月間の販売データをどのように活用していけば良いのか、また、活用するためにはどのレベルで販売データを蓄積していくべきなのか、について検討したいと思います。
まず、どのレベルでデータを蓄積していくべきなのかについては、「数値によって正しく実態が把握できることよりも、自信を持って具体的な行動に結びつけることができるか」という点につきます。いくら詳細な情報が揃っていて詳しく現状が理解できたとしても、具体的な改善策が実行されなければ全く意味がないからです。
この自信を持って具体的な行動に結びつけるという点から考えると、どのレベルでのデータが必要なのかは、その人の性格、想像力、置かれた状況によって異なります。 慎重派の人であれば、より詳細なデータを持って納得度を高める必要があります。また、想像力の豊な人であれば、データは不要という場合もあると思います。 しかし、注意しなければならないことは、行動するパターンには、納得度が高い場合の他に、緊急度が高い場合もあるということです。特に起業後数か月経過して、あまりうまくいっていない場合には、緊急度が高まり、普段は慎重派である人が、納得度の低いまま行動してしまったり、普段想像力の高い人が、本来の想像力を発揮できずに、いつもとは違う行動に走ってしまったりということが起こります。 このような場合、可能であれば数値から一定の合理的な解決策を導き出せれば良いのですが、多くの中小企業において、ある程度まとまった量のデータが蓄積されているのは会計データということになります。しかし、多くの場合この会計データには日付と金額だけが記載されており、それ以外の情報はあまり付加されていないというのが実態です。 ここで会計情報と紐づけて最低限押さえておきたい内容は、部門情報、プロジェクト情報、担当者情報、お客様情報などの項目です。実はこの項目は㈱アカウンタックスで提供中の経営見える化ツール「MIETA」で登録を要する項目です。(詳細は別途ご案内できればと思います。)できれば、この「MIETA」のように会計情報以外の情報を持てる会計ソフトを活用して日々の経理業務、情報管理を行っていくということが重要だと考えます。 |
販売データの分析にあたっては、まずはじめに「事業としての売上」と「そうでない売上」に分けることが重要なポイントになります。 起業直後であれば、もともとの知り合いが買ってくれたり、紹介してくれたりなど、純粋な事業としての売上とは言い難いものも販売データに含まれてきます。 右の例では、全体としての売上は開業直後から落ちてきていますが、事業としての売上は順調に伸びているというパターンになります。 ちなみに、前述「MIETA」では、経常的でない取引については「非経常」のチェックボックスにチェックを入れることで別管理ができる仕組みになっています。
上記を行った後、時系列に並べます。過去の蓄積期間や業態にもよりますが、BtoBであれば、基本的に月毎、店舗商売であれば週毎・日毎などの表を作成し、増えたのか、減ったのかなどの推移を把握し、まずは全体の傾向を把握します。さらに、この段階である程度増減要因を予想することも重要です。 右表の場合、N月目から順調に売上が上がっていますが、N+2月目で少し売上の伸びが鈍化しているようにも見えます。
続いて、部門・担当者・プロジェクト・お客様などの項目別に時系列の推移を把握します。 ここでどういった種類の売上が伸びていて、どういった種類の売上が減少しているのかを把握し、かつ、なぜそのような違いが出ているのかを、最低10個以上洗い出します。この段階ではざっくりで問題ありません。 上の表からは、A部門の売上は順調に伸びていて、B部門も順調に伸びているが、B部門の伸び方が少し落ちているということがわかります。 さらに、下の表でB部門の売上を担当者毎に見てみると、N月では担当者Aが50万円売上、担当者Bが全く売れなかったが、最近では担当者Bが爆発的に売るようになってきていることがわかります。 ここでは10個も挙げませんが、①担当者Bが異常に売れている原因を把握すること、②担当者Bが異常に売れ始めたことにより担当者Aのモチベーション低下などの影響が出ていなかを確認すること、などを行い、更に掘り下げることで、問題点が10個くらい出てくるのではないでしょうか。
上記で洗い出した問題点について、自分の経験や、従業員がいる場合は従業員に話を聞いてみたり、親しいお客様がいる場合はお客様に聞いたりしながら、問題点の裏付けを取り、STEP3で挙げた問題点が本当に問題点なのかを検討し、問題点を3つ程度に絞り込みます。 上記の例においては、いろいろ調べてみると、担当者Bがたまたま商品Aを販売したお客様が良い方で、多くの新しいお客様を紹介してくれていることで、非常に売上が伸びているようでした。さらに、担当者Bひとりでは、そのお客様から紹介される新たなお客様の対応が手一杯になってきているということでした。
上記絞り出した問題点を解決できる解決策を各問題点ひとつにつき最低5つ程度立案し、予想される効果や実行のし易さなどの観点から具体的な施策を3つ程度に絞りこみます。 上記の例においては、当面担当者Aの稼働の半分を、担当者Bの補助として充てることによりさらに部門Bの売上を伸ばすという方向で解決策を展開しました。
上記のように簡単な場合はデータがなくても問題ありませんが、現実的に中小企業のなかで様々な分析を行えるデータベースは会計データしかありません。できれば決算書や申告書を作るためだけでなく、様々な情報のデータベースとして活用できる体制を構築されることをお勧めいたします。 |