金融検査マニュアルでは、これ以上格付の仕方については踏み込んで言及していません。
債務者区分について、金融機関に具体的な例示を挙げながら詳細な示唆を与えているのとは対照的です。(債務者区分については、次編で見ます。)
つまり、金融機関の自己査定と金融検査マニュアルの関係は次のようになります。
格付は各行が独自の基準に基づき行う。
ただし、金融検査マニュアルによって、「信用格付は、債務者区分と整合的でなければならない」とされ、その債務者区分について具体的な基準が示されているため、結果的に各行の格付け判断に影響を与えている。
そして、各行の格付、債務者区分を含む自己査定の結果を定期的に金融庁が検査をする。
この構図を理解していただくと、御社が"貸すことができる会社"であるという情報を金融機関に対して積極的に提供することが重要である、ということに納得していただけると思います。
格付判定の仕方
では、信用格付は具体的にはどのように行われるのでしょうか。
実際に金融機関が格付を行うにあたって、もっとも比重の大きくなる情報が『債務者の財務内容』、つまり決算書です。
決算数値を財務分析にかけて融資を希望する企業に点数をつけるもので、この作業が格付の定量部分です。
格付をする際には、定性部分にも一定の点数がふられています。
定性部分で点数化される項目は決算書からは読みとれないもので、技術力とか経営者の能力とかがそれに当たります。
定量部分と定性部分の点数の割当ては、どの金融機関でも、だいたい前者が7~8割、後者が2~3割です。
次の表を見てください。
格付の仕方を、この表を使ってイメージしていただこうと思います。
繰り返しになりますが、格付判定作業の細かな部分は金融機関によって基準もやり方も違います。
あくまで、判定作業の流れについてイメージを持つことを目的に、ここでの説明を読んでください。
まず、金融機関の判断によって、「項目」欄の内容とその「配点」が決められています。
たとえば、総資産経常利益率は最高10点、当座比率は最高5点といった具合です。
この項目選定と配点は、自己査定の作業フローにおいて、金融機関ごとの個性が大きく反映される部分の一つです。
ここでは、代表的な項目をピックアップして入れておきました。
「数値等」の欄には御社の成績が入ります。
定量項目は決算書の数値によって決まります。
定性項目は格付判定者の洞察結果・所感が記載されます。
ここで挙げられている定量項目については、その計算式を、下に記しておきますので参考にしてください。
数値等欄の結果に基づき御社の「得点」欄がうめられていきます。
定量項目については、業種や業態ごとに項目ごとの点数表が定められています。
たとえば、小売業の自己資本比率は、0%で以上で1点、4%以上で2点・・・といった具合です。
御社が小売業を営んでいて、自己資本比率が3%であれば得点欄に1点がつけられます。
どのような分類分けのもとで点数表を作成するのかも、金融機関の個性がでるところです。
定性項目は、格付判定者の主観により得点が決まります。
もっとも、得点をつけるためのガイドラインは定められているはずなので、主観と言い切るのは言い過ぎかもしれません。
ここでお伝えしたいことは、定性項目の場合、数値等欄に記載される情報がそもそも担当者の主観に頼らざるを得ないということです。
さて、このような流れで各項目に点数がつけられていきます。
その点数の合計額によって格付が決まります。
たとえば、合計点数が51~60は格付1、41~50は格付2、といった具合です。
格付判定の仕方についてイメージはつきましたでしょうか?
格付は、実際には定量部分でほとんど決まってしまうといわれています。
もともと定量部分の方が点数の比重が高いうえ、定性部分は主観が基準となるため得点が標準的なところに落ち着きやすく点数に差が出ないようです。
結局のところ、格付は、定量項目、つまり決算書の内容によりその大勢が決まってしまうということです。
参考:定量部分計算式
(1)収益性
総資産経常利益率=経常利益/総資産
売上高経常利益率=経常利益/売上高
総資産回転率 =売上高/総資産
(2)安全性
自己資本比率 =純資産/総資産
当座比率 =当座資産/流動負債
流動比率 =流動資産/流動負債
固定比率 =固定資産/純資産
固定長期適合率 =固定資産/(固定負債+純資産)
(3)返済能力
債務償還年数 =有利子負債/(営業利益+減価償却費)
経常収支比率 =経常収入/経常支出