出張手当による節税

出張手当を支給することで節税になるという話があります。
これは事実ではありますが、運用で間違えているケースがかなりあります。
良くあるのは、出張日当を受給しながら出張時のあらゆる経費を実費で精算しているケースです。
「あれっ、ウチの会社も!?」ということがありませんか?

節税方法として、あまりにメジャーになったことで、いろんな節税本に登場した挙句に、税法とは逸脱した運用になっている事例の一つです。

ちゃんと運用すれば効果の高い節税手法なので、正しく運用する必要があります。
続きでは、出張手当による節税の根拠となっている所得税法第9条1項4号、所得税法基本通達9−3,9−4。消費税法基本通達11-2-1、11−2-2を御紹介しながら、正しい運用について、説明させて頂きます。

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■出張手当の支給による3つの節税

出張手当による節税の中身は、
1.給与所得にならないという、手当を貰う側の「所得税」の節税
2.消費税が課税されるという、手当を支払う側の「消費税」の節税
3.出張手当>出張実費になることによる、手当を支払う側の「法人税」「所得税」の節税

です。

■給与所得にならない「所得税」の節税

法人又は個人事業主(「以下、法人等」)が、雇用契約等に基づき、役員・従業員に金銭又は現物を支給した場合、原則として給与所得として所得税が課税されます。
しかし、所得税法上、例外として、所得税が課税されないケースがいくつかあります。
その一つが今回ご紹介する出張手当です。

しかし、出張手当と名前が付いていれば何でも良いわけではありません。
(このレベルで既に間違っているケースも見たことがありますが)

所得税法第9条には所得税が非課税となる所得が列挙されています。
その4号に、出張手当について次のような記載があります。

(所得税法第9条1項4号)
4.給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
http://www.houko.com/00/01/S40/033.HTM#s1

 

ここで重要なのは、「その旅行について通常必要であると認められるもの」という部分です。

そして、これを受けて、基本通達9−3では、「その旅行について通常必要であると認められるもの」について、もう少し具体的に内容を規定しています。具体的といっても、ほんの少しですが・・・。

(非課税とされる旅費の範囲)
9-3 法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。
(1)その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人のすべてを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2)その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/shotoku/02/02.htm#a-02

 

 

上記の条文を基に整理すると、出張手当として所得税が非課税になるためには、
1.その出張に通常認められる範囲の運賃、宿泊料、移転料等であって、
2.役職毎に金額は異なっていても良く、
3.他の会社と比較した場合でも取り立てて高くない

ということが必要ということが解ります。

■消費税が課税される「消費税」の節税

消費税が課税されるというと、何か不利なように思う方がいるかもしれません。今回、法人としては消費税を納税する側になりますので、支払った経費の消費税が認められるということは、消費税の納税額が減る効果があります。

給与所得の場合、消費税の非課税取引に該当するので、支払ったとしても消費税の支払い部分はゼロということになりますが、出張手当として支払うとそのうち消費税に相当する部分(支払額の5/105)が消費税の支払いとして認められ、その分納税額が減るということになります。

消費税法基本通達11-2-1では、出張手当について次のように定められています。

(出張旅費、宿泊費、日当等)
11-2-1 役員又は使用人(以下「使用人等」という。)が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族(以下11-2-1において「退職者等」という。)がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、事業者がその使用人等又はその退職者等に支給する出張旅費、宿泊費、日当等のうち、その旅行について通常必要であると認められる部分の金額は、課税仕入れに係る支払対価に該当するものとして取り扱う。
(注) 1「その旅行について通常必要であると認められる部分の金額」の範囲については、所基通9-3《非課税とされる旅費の範囲》の例により判定する。
2.海外出張のために支給する旅費、宿泊費及び日当等は、原則として課税仕入れに係る支払対価に該当しない。
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/shohi/11/02.htm

ここで重要なのは、注1です。
「所基通9-3《非課税とされる旅費の範囲》の例により判定する。」と書いてあります。
つまり、所得税法上、非課税とされる出張手当であれば、課税取引になるということです。

■出張にともなう損金が増える「法人税」「所得税」の節税

通常、出張手当を支給する場合、いわゆる出張日当を含めて支給しますので、実際に発生した経費よりも多額になります。つまり、出張の実費だけを精算する場合より、損金の額が増え、その分所得が減り、納税額が少なくなります。

しかし、お気をつけ頂きたいのは、「通常必要な金額」を超えた場合の取扱にはご注意頂きたいと思います。

所得税法基本通達9-4にそのことが書いてあります。

(非課税とされる旅費の範囲を超えるものの所得区分)
9-4 法第9条第1項第4号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な支出に充てるものとして支給される金品の額が、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲の金額を超える場合には、その超える部分の金額は、その超える部分の金額を生じた旅行の区分に応じ、それぞれ次に掲げる所得の収入金額又は総収入金額に算入する。(平元直所3-14、直法6-9、直資3-8、平22課個2-16、課法9-1、課審4-30改正)
(1)給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するためにした旅行 給与所得
(2)給与所得を有する者が転任に伴う転居のためにした旅行 給与所得
(3)就職をした者がその就職に伴う転居のためにした旅行 雑所得
(4)退職をした者がその退職に伴う転居のためにした旅行 退職所得
(5)死亡による退職をした者の遺族がその死亡による退職に伴う転居のためにした旅行 退職所得(法第9条第1項第16号の規定により非課税とされる。)
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/shotoku/02/02.htm#a-02

例えば、社長を含め役員に支給した出張手当が、通常必要な金額を超えた場合、給与所得になります。そして、役員報酬は定期同額が原則ですので、この超えた部分は役員報酬ではなく「役員賞与」になります。役員賞与は法人では全額損金にはなりません。つまり、節税どころか、法人でも課税、個人でも課税という二重課税になってしまいます。

■出張「日当」について

出張手当として「日当」を支払うことも認められています。
しかし、この日当も旅行に必要な経費の支出のために支払われるものでなければいけません。基本通達9-3には「その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品」という風に書いてあります。

つまり、出張先で、通常の事務所で仕事をするのに比べて、諸々諸経費がかかるであろうから、それをいちいち細かく精算する事務コストをかけるよりも、日当として支給してしまいましょう、というのが、出張手当の中に「日当」を含めて良いという趣旨になります。

これを誤解して、出張手当を「出張のご苦労様報酬」として支給しているケースが散見されます。それでも、この出張手当が不相当に高額でなければ、税務上問題になることはないと思いますが、出張経費のほぼ全てを実費精算しながら、それなりに高額な出張手当を支給している場合は、税務リスクがあると考えて頂く必要があると思います。

■出張旅費規程について

一般的に、出張手当による節税をするためには、出張旅費規程が必要と言われますが、規程が絶対に必要というわけではありません。ご覧頂けばわかりますが、規程が必要という風には書いてありません(よね)。

税法は法律ですから、書いてないことで規制されることもありませんし、更に細かいことをいうと、基本通達は法律ではありませんから、この通達を受けて、規程がないと所得税が非課税にならないと解釈するのは間違いです。
(とはいえ、国税庁が作成し誰でも見られるように公表されている情報なので、無視することは出来ませんし、現実の実務では通達はとても重視されています。)

したがって、出張旅費規程がないという理由で、出張手当を税務調査で否認されることはないということは覚えておいて頂きたいと思います。

では、出張旅費規程はなくても良いのでしょうか?
私は、出張旅費規程はあった方が良いと思います。
「なんだよ!」と怒られそうですが。

何のために出張旅費規程を作るかと言えば、
1.出張手当の「範囲」を明確にする
2.出張手当の「金額」を明確にする
という意図があるからです。

まず、出張手当の「範囲」ですが、例えば、旅費については、すべて定額で定めるのは不合理ですので実費精算とする一方で、座席の種類、例えば新幹線でいえば、役員はグリーン車と社員は普通指定席と利用する座席が違うということを定義するのが通常です。
また、出張手当の「金額」ですが、役職に応じて、出張先で宿泊する部屋やホテルの質も変わることから、食費その他諸経費が変動することを踏まえて、役職に応じた金額を設定することになります。

これらは一律に定められるものではありません。基本通達9−3でも、社内でのバランス、他社とのバランスを考慮して決めると書いてあります。
一律で決められないが故に、特に会社の業績が良い時に出張手当の金額を増加させ、不当に所得を圧縮するようなことが起きないようにしておくことが重要になるわけです。

出張旅費規程の具体的な事例については、別の記事でまた御紹介したいと思います。
(総務部法務担当の記事になると思います。)

※この記事は2011年12月現在の法令等に基づき作成されています。

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