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節税したいなら「これって経費になりますか?」と税理士に質問してはいけない!?

お客様からもっとも多く頂くご質問が「これって経費になりますか?」です。

節税目的で作った会社ではなくても、やはり税金は安い方が嬉しいものです。その為には、少しでも所得(利益)を圧縮する必要があるということは、経営者であれば皆考えることです。それがタイトルの質問に繋がるのでしょう。

お客様は「これは経費です。」「これは経費ではありません。」とバシッっと回答を求めています。だからバシッと回答する税理士さんが多いようです。私は・・・というと、バシッと回答することはあまりありません。なぜなら、私はその会社の経営者でもなければ、税務署の人間でもないからです。

これは無責任で言っているわけではありません。

理由は後で詳しく説明しますが、顧問税理士として都合の良い回答と、お客様にとって都合の良い回答というのは違うからです。私はお客様にとって都合の良い回答を導き出したいのです。そして、顧問税理士としての都合をお客様にもご理解頂きたいのです。

経営者の方は節税をしたいと思ってお話しをされているということを前提とした場合、税務署の職員でもない私が、自分の主観で「これは経費ではない」と判断するのは、お客様の身になった態度ではないと思います。経費になるかどうかは、実はそんなに簡単なものではありません。外部の税理士が判断するより、むしろ経営者の方の方が適切な判断を下せるものなのです。私が経営者の方に適切な判断をしてもらうために、何を話しているかを、お伝えしていきたいと思います。

この記事は長いです。そして、前半とっても理屈っぽいです。それでもお付き合い頂ければ、ぱっと目の前が開ける記事になっていると思います。お付き合いよろしくお願いします。

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■会計の基礎の基礎から考える「必要経費」

会計公準という言葉をご存知でしょうか。大学で簿記の授業をとった方なら、必ず聞いている言葉ですが、最初に習うことなので、忘れている方も多いと思います。

会計公準とは、会計の基本的前提です。
この考え方を外したら会計ではないというくらい基本的なものです。

会計公準は3つの公準から出来ています。
簡単に説明すると次のような内容です。
・企業実体の公準・・・会計を集計する単位毎に計算する
・継続企業の公準・・・企業は会計期間を超えて存在する
・貨幣的測定の公準・・・金額単位で測定できるものを対象にする

この中で、必要経費になるかどうかにかかわるのが「企業実体の公準」です。

■公私混同は企業実体の公準に反する

企業実体の公準は、会計を集計する単位毎に計算することを要求しています。
この具体例として、私に会計のイロハを教えてくれた先生は、八百屋の会計を事例にして教えて下さいました。

人参1本の売値は100円、仕入値は50円とします。今日人参は7本売れています。

女将:「お父さん、今日の晩御飯はカレーよ。人参とってくれる」
親父:「あいよ、母ちゃん。人参3本!」
(その夜)
親父:「今日は、いつもより人参が沢山売れたなー。その割に売上は少ないけど。まぁ良いか!」

この場合の八百屋の帳簿はこうなります。

<八百屋の損益計算書>
(外部売上)  (家事消費) (合計)
売上 700円    0円  700円
原価 350円  150円  500円
粗利 350円 △150円  200円

これでは、八百屋では正しい損益計算ができているとは言えませんよね。
この事例の何が問題かと言うと、八百屋の会計に自宅の会計が混ざってしまっているのが問題なわけです。八百屋と自宅は別の会計単位にしないと、八百屋の正しい損益計算は出来ない。これを司るのが企業実体の公準なのです。

正しい会話は次のような会話になります。

女将:「お父さん、今日の晩御飯はカレーよ。人参とってくれる」
親父:「あいよ、母ちゃん。人参多め!300万円!!」
女将:「お父さん、私からもお金を取るのかい。はい300円」
親父:「あったりめーよ。」
(その夜)
親父:「今日は、いつもより人参が沢山売れて儲かったなー。自分で食ってりゃ世話ないか!!」

この場合の八百屋の帳簿はこうなります。

<八百屋の損益計算書>
(外部売上)  (家事消費) (合計)
売上 700円  300円 1,000円
原価 350円  150円   500円
粗利 350円  150円   500円

この時、八百屋と自宅の会計はそれぞれ分離されて正しい損益計算が出来るということです。

この事例を言い換えると、公私混同は出来ないということです。
(先生は「店と奥の分離」と仰っていましたが)
なんだか道徳の時間みたいな話になってしまいしたが、平たく言えば、そういうことです。

■税法は道徳の教科書ではありません

次に、税法ではどういう風になっているのかを御紹介したいと思います。

実は、法人税法には必要経費に関する記述はありません。会社法に基づく決算上の利益を前提にしていることは明確に規定されているので、暗黙的に公準により定義されていると考えるのが正しい理解だと思います。

一方で所得税法には、必要経費に関する条文があります。

(必要経費) 第37条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第35条第3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。 http://www.houko.com/00/01/S40/033.HTM

所得税法では、売上との関連が、直接関連する売上原価と間接的に関連する販売費及び一般管理費を必要経費として見ています。これは考え方としては、企業実体の公準と同じと考えて問題ないと思います。

しかし、直接的であれ間接的であれ関連するかどうかを明確に区分できるものではありません。
ここがミソなのです。

■必要経費かどうかは顧問税理士に聞いてはいけない?!

ここまでに書いたことが、必要経費概念の理論の全てです。「解ったような解んないような」というのが本音だと思います。

こうなると、プロである顧問税理士に判断をして貰うのが良いだろうと考えるのも仕方がないことだと思います。しかし、その相談から経営者がメリットを得られるかというとそうでもないように思います。

それは、顧問税理士の立場からすると、税務リスクが少ないほうが仕事がラクというのが本音だからです(私も顧問の仕事をしているから正直に申し上げています。)。税理士が判断した経費が税務調査で否認された場合、経営者から判断ミスを咎められる可能性があります。したがって、経営者が期待するような判断はしない方が、顧問税理士の営業スタンスとしては正しいということがあるのです。

これがエスカレートして、まるで税務署員のような税理士もいるようです。税務調査でなにも指摘されないことに情熱を燃やしているようなタイプです。このタイプにはどの税理士でもなろうと思えばなれます。私でも出来ますのでご要望があれば仰って下さい。その代わり、納税資金のご用意をお願いします・・・。

■必要経費かどうかは理論的背景を踏まえて経営者が判断するのが一番良い

実際にビジネスをしているのは経営者であって、顧問税理士や税務署の調査官ではありません。
必要経費性の判断、つまり売上との関連性の判断は、経営者にしか出来ないのです。
また、決算書の数値に関する責任は経営者にあり、顧問税理士にあるわけではありません。

これは責任転嫁ではなくて事実です。

その証拠に、仮に顧問税理士が作った決算書のミスで税金を払うことになったとして、税務署が顧問税理士のミスが原因だと知っていたとしても、税金の請求を顧問税理士にすることはありません。お客様の側に請求してくるのです。(その後、顧問税理士との間でその分をどう処理するのか?という問題はありますが)。

そして、ここまで読んで頂いた経営者の方は、税務署員と同じレベルの必要経費に関する理論的知識を持っています。この知識をもったうえで、経営者が行う必要経費かどうかの判断は、顧問税理士はもちろん、税務署の調査官より正しくないということがいえるでしょうか。

つまり、経営者は、必要経費性を主張することができる唯一の人物ということが出来るのです。

■必要経費かどうかは最終結論は税務調査の結果

必要経費かどうかの最終結論は、税務調査の場で下されます。
税金の徴収漏れを探す目的でやってくる調査官と、経営者と顧問税理士のチームとの対決の場です。

この時、必要経費性に関する説明を求められるケースがあります。
この時、経営者の方にお願いしたいことがあります。
一度必要経費として処理したものに対しては毅然とした態度で説明をして頂きたいのです。
税務調査で、「必要経費ではない」と否認されるケースの多くは、経営者が”ブレ”てしまったことによるものでだからです。

この経費を必要経費と認めた。

これは、一番自社の事業に詳しい経営者が下した結論です。
こうして私の長い記事を読んで理論的背景も踏まえているのです。
調査官に何を言われても、相手の言い分に合わせる必要はありません。

私ども顧問税理士はそれをサポートして、調査官に認めさせることが、本来やるべき仕事であり、結果的にこれが、もっとも税金を少なくる方法であると、私は考えています。

長文にお付き合い頂き、ありがとうございました。

※この記事は2012年1月現在の法令等に基づき作成されています。

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