個人事業主は経費をクレジットカードで支払うと、経費管理や資金繰りがしやすくなります。しかし、申告方法とカードの種類によって経費処理が変わってくるため注意しましょう。クレジットカードを使うメリット・デメリットと、おすすめカードを解説します。
サイト管理者の紹介 山口 真導 (株式会社アカウンタックス 代表取締役) 公認会計士・税理士 『起業5年目までに知らないと損する 節税のキホン』など節税や資金繰りを著書、YouTubeチャンネルによる動画配信するなど社長の手取りをトコトン増やすセミナーなども開催など資金繰りの悩みを節税対策と銀行対策で解決する専門家として活動。 |
もくじ
経費をクレジットカード払いするメリット
個人事業主として事業運営していると経費が発生します。その経費をクレジットカードで支払うことも検討してみましょう。クレジットカードでの支払いは単に現金で支払うよりも、経費管理や資金繰りなど、さまざまな面でメリットがあります。
経費管理が楽になる
クレジットカードで経費を支払うと、明細書に支払いの発生日時・場所・支払先・金額などが全て記載されます。経費の詳細が一目でわかるため、経費管理が非常に楽になるでしょう。
現金払いをしていると、日々の細かい支出を発生のたびに記録しなければなりません。後で帳簿をつけるときになって、いつ・どこで・何に使ったお金なのかを忘れてしまい、正しく経費計上ができなくなる、という事態もあり得るのです。
さらにクレジットカードなら、会計ソフトを連携させて支払記録の自動取り込みを行うこともできます。
資金繰りに生かせる
資金繰りの改善も、クレジットカードで支払うメリットの一つです。クレジットカードを使用すると、支払いから実際に口座のお金が引き落とされるまでに1カ月から2カ月弱の猶予が発生します。
『近々売上金が入る見込みはあるものの、今すぐには資金に余裕がない』という状況でも、必要な仕入れを行ったり、設備への投資を行ったりできるのです。
特に事業開始直後で資金に余裕がない個人事業主にとっては、クレジットカードを使った資金繰りは役立つでしょう。
ポイントやマイルが貯まる
クレジットカードを使った支払いではポイントやマイルが貯まり、現金払いよりも得をするケースが多いでしょう。カード会社によって貯まるポイントの種類や還元率は異なるものの、貯まったポイントを経費の支払いに充てれば経費削減に役立ちます。
事業に関する支払いは比較的高額になるケースが多く、ポイントやマイルが効率的に貯められるでしょう。月々発生するオフィスの水道光熱費や家賃、通信費なども、現金で振り込むよりも、クレジットカードで支払った方がお得です。
デメリットと注意点
クレジットカードを使った支払いは、メリットばかりではありません。クレジットカード払いの便利さゆえのマイナス点もあるため要注意です。
クレジットカードによる支払いのデメリットと注意点を解説します。
使いすぎる心配がある
クレジットカードで経費を支払うと、実際に口座から引き落とされるまでに猶予が生まれます。これが使いすぎの原因となる点に注意が必要です。
クレジットカードを使うと、手元に余裕資金がなくても支払いができてしまいます。そのため、自分が総額でどの程度の支払いをしているのかが把握できなくなり、つい予算以上の支出をしてしまうのです。
クレジットカードを使いすぎることで、利用限度額に達してしまうケースもあります。限度額に達すると、利用額の引き落としが無事に完了しなければ、再度クレジットカードを使うことができません。
クレジットカードを使った資金繰りもできなくなるため、一時的に事業の財政を圧迫する可能性もあるでしょう。
領収書が発行されない場合がある
通販サイトなどでクレジットカードを使って支払う場合、領収書が発行されません。クレジットカード会社からは請求明細書が送付されますが、これは正式には領収書として代用できないため注意しましょう。
これは商品を購入した店舗から発行された書類ではないため、法律上領収書と認められていないのです。
通販サイトでクレジットカードを利用した場合、購入時のメールや購入履歴をPDF化などして保管しておきましょう。
クレジットカード決済の記帳方法
クレジットカードは、支払いと引き落としのタイミングにずれがあります。カードを使った『お金が動く原因が生まれる』タイミングと、口座から代金が引き落とされて『お金が動く』タイミングの二つがあるため、記帳方法に戸惑う人もいるでしょう。
クレジットカード決済をする場合の記帳方法を、申告方法が異なる場合とクレジットカードの種類が異なる場合に分けて解説します。
青色申告と白色申告で記帳方法が異なる
クレジットカードでの決済を記帳する場合、青色申告と白色申告で違いがある点に注意しましょう。白色申告は単式簿記であり、一つの勘定科目で取引を記載するため記帳が比較的容易です。
例えば、8月15日にクレジットカードで200円の文房具をを購入した際、購入日と金額、目的を記載するだけで構いません。消耗品を購入した場合は、支出として『消耗品費』と記載するだけです。
記入例
収入 | 支出 | |
8月15日 | 消耗品 200円 |
一方で青色申告は複式簿記であり、売上や費用が発生した事実に基づいて記帳する『発生主義』をとります。これは実際にお金が動いた日付に加え『お金が動く原因となる事実が発生した日付』も記帳する方法です。
つまり、クレジットカードで取引が成立したタイミングと、実際にお金が動いたタイミングの2回記帳する必要があります。クレジットカードが個人用か事業用かで仕分けが異なるため注意しましょう。
個人用クレジットカードを使った場合
事業の経費支払いに個人用クレジットカードを使用した場合、クレジットカードを使用した日付で記帳を行います。実際にクレジットカード会社が個人用口座から代金を引き落とした日には、記帳する必要はありません。
借方には経費の科目、貸方には『事業主借』を記載しましょう。この記帳は『クレジットカードを利用した人が、事業主からお金を借りて支払った』ということを意味します。
▼記入例
借方 | 貸方 | |
8月15日 | 消耗品 200円 | 事業主借 200円 |
事業用クレジットカードを使った場合
経費支払いを事業用クレジットカードで行った場合は、クレジットカードで支払いをした日と、実際にクレジットカード会社が事業用口座から代金を引き落とした日の2回記帳する必要があります。
クレジットカードを利用した日には、借方に経費の科目、貸方には『未払金』を記載します。実際に代金が引き落とされる日には、借方に『未払金』とし、貸方に『普通預金』と記載しましょう。これにより、未払金が相殺されます。
年をまたぐ場合を除き、実際に代金の引き落としがされる日に借方を経費の科目、貸方に『普通預金』と記載して簡略化する方法もあるため、覚えておくと記帳の手間が省けるでしょう。
▼記入例(月末締 / 翌月25日支払いのクレジットカードの場合)
借方 | 貸方 | |
8月15日 | 消耗品 200円 | 未払金 200円 |
9月25日 | 未払金 200円 | 普通預金 200円 |
個人事業主のクレジットカード活用のコツ
個人事業主がクレジットカードを利用する場合、正確かつスムーズに経費管理をするためのコツを押さえておくことをおすすめします。コツを知っているかどうかで、記帳のわかりやすさと手間の大きさが断然変わってくるでしょう。
個人用と事業用を分ける
個人事業主がクレジットカードを利用する場合は、個人用カードと事業用カードを分けて使うことがポイントです。
カードの種類によって記帳方法が変わると複雑になるため、事業経費の支払いには事業用カードを使用するとあらかじめ決めておいた方がよいでしょう。
事業を運営していると日々さまざまな経費が発生します。個人用カードと事業用カードを混ぜて使っていると、プライベートの支払いなのか、事業用の支払いなのかがわからなくなり、正確な記帳ができなくなります。
クレジットカードの利用明細書を個人用・事業用で分別する手間も省けて、経理管理の負担を大幅に減らせるでしょう。
会計ソフトと連携する
個人事業主がクレジットカードを使うなら、会計ソフトと連携するのがおすすめです。ほとんどの会計ソフトは、事業用口座とクレジットカードを連携させ、記録を自動で取り込む便利な機能を搭載しています。
会計ソフトとクレジットカードを連携させると、いちいち利用明細書を見て手入力する手間が省けるため、経費処理の作業時間が節約できます。さらに自動入力されるため、入力ミスも防げ、正確な経費計上ができるのです。
ただし、会計ソフトには事業用の支払いと個人用の支払いを判断する能力はないため、連携させる場合は事業用カードのみに絞りましょう。
個人事業主におすすめのクレジットカード
多くのメリットを享受できるクレジットカードですが、いろいろなカード会社が事業用クレジットカードを発行しているため、どれを選べばよいかわからないという人もいるのではないでしょうか。
個人事業主におすすめできるクレジットカードを3種類紹介します。
三井住友ビジネスカード for Owners クラシック
三井住友ビジネスカードには三つの種類がありますが、個人事業主におすすめのカードは一般カードである『クラシック』です。
年会費が1,375円(税込)とお手頃で、申し込み時に登記簿謄本と決算書が不要なのもメリットでしょう。インターネット経由でカードを申し込みすれば、初年度の年会費は無料です。
対象となる店舗を利用することでポイントが+2%還元されたり、三つまで対象店舗を登録して利用するとポイントが+0.5%還元されたりするサービスもあります。特定の店舗で買い物をすることが多い個人事業主は、効率よくポイントを貯められるでしょう。
最高2,000万円の海外旅行傷害保険と、海外での買い物に適用される年間100万円までのショッピング補償も付帯しているため、海外でのビジネスにも安心です。
三井住友ビジネスカード for Owners | 中小規模企業・個人事業主向け法人カードの三井住友VISAカード
アメリカン・エキスプレス・ビジネス・ゴールドカード
アメリカン・エキスプレス・ビジネスの『ゴールドカード』は、充実したサービスを求める個人事業主に適しています。年会費は36,300円(税込)とやや高額ですが、事業用カードの年会費は、経費として計上が可能です。
全国300カ所にあるシェアオフィスやコワーキングスペースを利用できる『OFFICE PASS』を最大10%オフで利用できます。また、クラウドソーシングサイト『ランサーズ』の有料オプションを初回無料で利用できるうえ、紹介サポート料金を20%オフで利用可能です。
国内出張が多い人は、航空機のチケットをゴールドカードで支払えば、航空機の遅延や手荷物遅延による損失を最高2万円、手荷物紛失による損失を最高4万円補償するサービスがあるため安心です。
JCB CARD Biz
JCB CARD Bizには2種類がありますが、一般カードは年会費が1,375円(税込)とリーズナブルです。申し込みの際に法人の本人確認書類がいらないため、申し込みが簡単にできます。
毎月のカード利用状況に応じて貯まる『Oki Dokiポイント』は、カード会社が指定する通販サイトや家電量販店での買い物でポイント優待があります。カード利用店舗を選んで上手に使えば、効率よくポイントを貯められるでしょう。
貯まったOki Dokiポイントはマイルや提携先のポイントに交換したり、1ポイント3円でキャッシュバックできたりと、使い勝手がよい点も特徴です。
法人確認書類不要の中小企業・個人事業主向けカード「JCB CARD Biz」 | 法人カードのお申し込みなら、JCBカード
個人事業主はクレジットカードを使いこなそう
個人事業主は経費をクレジットカード払いにすることで、経費管理や資金繰りが格段に楽になります。一方で、その手軽さからつい使いすぎてしまいがちな点には要注意です。
クレジットカード払いを行った場合の経費計上は、申告の種類とクレジットカードの種類によって異なるのもポイントです。記帳をわかりやすくするため、個人用・事業用でカードを分け、会計ソフトとの連携をしておくことをおすすめします。
個人事業主はクレジットカードを使いこなし、事業運営をスムーズに進めましょう。