事業を始めようと思ったら、まずは資金を用意しなければなりません。開業段階での資金調達にはどのような方法があるのか、具体的な方法を紹介します。加えて、融資の審査に通るためのポイントについても見ていきましょう。
サイト管理者の紹介 山口 真導 (株式会社アカウンタックス 代表取締役) 公認会計士・税理士 『起業5年目までに知らないと損する 節税のキホン』など節税や資金繰りを著書、YouTubeチャンネルによる動画配信するなど社長の手取りをトコトン増やすセミナーなども開催など資金繰りの悩みを節税対策と銀行対策で解決する専門家として活動。 |
もくじ
開業に必要な費用とは?
開業時に用意するべき資金には、どのような用途があるのでしょうか。どの程度の金額が必要なのかも考えながら、以下の項目を確認しましょう。
事務所や店舗にかかる費用
事務所や店舗を構える場合にはそのための費用がかかります。物件を借りる場合は、敷金や礼金、場合によってはリフォーム費用なども必要です。自宅兼事務所にすると費用を抑えられるのがメリットですが、家賃全額を経費にできないことは覚えておきましょう。
また、机や椅子などの事務用品、電話やパソコンといった備品を購入する場合も、ある程度まとまった額の資金が必要です。加えて、インターネットを利用するためには通信費がかかります。
開業時に一時的に必要になる費用だけでなく、家賃や通信費などその後も毎月かかる金額も、ある程度想定しておかなければなりません。
広告など販売促進のための費用
お店を構えているだけでは、なかなか来客はありません。お店やサービスの認知度を上げるための広告費、ウェブサイトの制作・運営費などをはじめとした販売促進の費用についても考慮する必要があります。
自分でウェブサイトや広告のデザインができるのであればよいですが、そうでなければ外注しなければならず、その費用も必要です。サイトの更新やチラシの印刷費などもかかるため、毎月発生する販促費をあらかじめ算出しておきましょう。
開業後の運転資金
開業したら、当面の運転資金として3カ月分程度の資金が必要です。そこには商品・サービスを提供するための仕入れ費用やさまざまな経費も含まれます。
顧客に対して商品やサービスを提供したとしても、クレジットカード決済や掛取引の場合は、入金までにタイムラグが生じます。
売掛金を実際に回収できるまでは、人件費や広告費、さまざまな仕入れに対する費用など出費ばかりがかさむでしょう。それを考慮に入れ、運転資金を用意することが重要です。
個人事業主が開業時に資金を調達する際の基本
開業時に資金を調達するためには、その準備としてまず『開業届』の提出が必要です。提出方法もあわせて見ていきましょう。
開業届を提出する
事業に用いる資金を調達するためには、まず『開業届』を提出する必要があります。開業届は、個人事業主が税務署に対し事業の開始を知らせるための書類です。
開業届を提出することによって、事業用の銀行口座を開設できるようになるとともに、事業に関するさまざまな書類を発行できるようになります。
資金調達で融資を受ける際には、営業許可証などの提出を求められるケースも多いものです。それを入手するためにも、開業届の提出は必須です。
開業届は所得税法上、事業の開始の事実があった日から1カ月以内に提出しなければいけません。
開業届の提出方法
開業届の書式は、最寄りの税務署や国税庁のウェブサイトで入手できます。下記の国税庁のページからPDFをダウンロードするのが簡単です。
開業届の提出は、以下のいずれかの方法で行いましょう。
- 税務署の窓口に持参する
- 郵送する
- 『e-Tax』を使って申請する
郵送やe-Taxの利用は直接税務署に行く必要がないので便利ですが、税務署の窓口に持参した場合は、記入漏れなどがあってもその場で修正することができます。自分にとってもっとも適した方法を選びましょう。
あわせて『所得税の青色申告承認申請書』の提出も済ませておくことをおすすめします。
個人事業主と法人の資金調達の違い
資金調達を行う場合、個人事業主と法人ではさまざまな違いがあります。詳細をきちんと把握して、資金調達を行う際の参考にしましょう。
審査の難易度に変わりはない
法人の方が審査を通過しやすいイメージがありますが、実際には難易度に大きな差はありません。(担当者が法人の融資には慣れていても個人事業主の融資には不慣れということが時々あります。そういう意味で法人の方が実際は借りやすいというのは事実だと感じています)
金融機関が重視しているのは『融資したお金がきちんと返済される』という点です。そのため事業計画書が現実的かどうかや、融資に対する自己資金の割合などが審査では注目されます。そこに問題がなければ、個人事業主であっても融資は受けられます。
審査では事業経験も重視されます。その業種に対する事業経験が過去に十分あれば、個人事業主でも審査に通りやすいでしょう。
反対に、経験が一切ない種類の事業を始める場合には、法人であっても審査に通るのが難しくなる可能性があります。
法人の方が選択肢が多い
利用できる資金調達方法の種類は、法人の方が個人事業主よりも多いといえます。たとえば銀行融資やファクタリングといった方法は、個人事業主による申し込みを受け付けていない場合も少なくありません。
また、株式会社であれば、株式を用いた資金調達も可能です。より多くの資金を調達したいと考えている場合には、個人事業主よりも法人の方が適しているといえるでしょう。
しかし、株式を用いた資金調達は、カネも出すが口も出すという意味ですから、安易に考えるのは危険です。将来、上場を目指す方以外は、基本的には考えない方が良いと思います。
開業資金の調達方法
開業資金を用意するもっとも良い方法は、自己資金を貯めるという方法です。しかし資金調達が必要な場合もあるでしょう。開業資金を外部から調達する方法について解説します。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、政府の全額出資により設立された金融機関です。創業時でも利用できる融資制度が用意されており、金利も低いため、はじめて資金調達を行う際におすすめできる金融機関といえます。
日本政策金融公庫から借入を行うにあたり、『新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる』『事業開始後おおむね7年以内』という制約が設けられています。
保証人や担保などは必ずしも必要ではない点もメリットでしょう。すでに銀行などから融資を断られてしまっている場合でも、日本政策金融公庫であれば借入ができる可能性があります。まずは相談してみましょう。
信用金庫
信用金庫は、信用金庫法にもとづいた地域密着型の金融機関です。取引先として想定されているのは、大企業ではなく主に中小企業や個人事業主で、営業地域は一定のエリアに限定されているという特徴があります。
利益第一主義ではなく、その地域の発展・繁栄が最優先の目的として掲げられています。利用するには、信用金庫の営業地域に居住しているか事務所を構えているといった条件を満たすことが必要です。
中小企業や個人事業主を対象としていることから、『従業員数300人以下』『資本金9億円以下』という条件が課せられます。会社が大きくなればほかの資金調達方法を探す必要がありますが、創業時の融資先として公庫の次にあげられる選択肢です。
国や自治体の補助金・助成金
国や自治体が提供している『補助金』や『助成金』を活用するのも有効です。
補助金は要件を満たし、かつ審査に通れば支払われるものであり、助成金は要件を満たしていれば必ず受け取れるという違いがあります。どちらも返済が不要であるという点が大きなメリットでしょう。
中には1000万円を超える金額を受け取れる制度もあります。国や地方自治体による補助金や、ファンドによる助成金などさまざまな方法があるため、利用できる条件を満たしている場合は積極的に利用を検討しましょう。
制度融資
制度融資とは、自治体と連携している金融機関が、信用保証協会の保証を受けた上で融資を行う制度です。審査のハードルが低く、低金利で融資を受けられるというメリットがあります。
その一方で、金額に上限が設定されていたり、自治体ごとに制度が異なる場合が多く申請が複雑であったりするといったところが注意点です。
制度融資自体が用意されていない自治体もあるため、制度融資の利用を検討する場合には、まずは存在の有無から確認しましょう。
ビジネスローン
ビジネスローンは事業資金専用のローンのことです。個人事業主や法人の経営者などが対象で、事業用途以外での個人の利用はできません。ビジネスローンの使途としては以下が想定されています。
- 新規事業の開業資金
- 設備投資資金
- 運転資金
- 取引先への支払い資金
- その他、事業に関わる資金
開業直後の個人事業主でも利用できるビジネスローンも存在しており、最大500万円までローンを組めるサービスも存在しています。
これから事業を始めようとしている場合や運転資金が不安な場合などは、検討してみてもよいでしょう。
ただし、ビジネスローンは簡単に資金を調達出来ますが、最後の手段としておくべきです。機械的に審査をして融資を出しているに過ぎません。そのためおカネを出してくれる以外のことは期待できません。安易にビジネスローンに走るのではなく、金融機関で融資審査をしてもらうことで、事業計画をブラッシュアップする貴重な機会と考えてもらうのが良いと思います。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、インターネット上に自分の事業に関する情報を公開し、それに賛同した個人投資家から資金を集める方法です。不特定多数から出資を受けられるのが特徴といえます。
クラウドファンディングには以下のように複数の種類があり、それぞれ方式が異なります。
- 寄付型
- 購入型
- ファンド投資型
- 融資型
- 株式投資型
自分のビジネススタイルに合っているかという点や、利用できるのは個人なのか法人なのかといった点を確認しましょう。
クラウドファンディングではプロジェクトを公開する必要があるという性格上、すぐに他社に真似されてしまう場合があるという話が良くなされます。
心配は、新規ビジネスを行い、成功したときに後から考えれば良いのです。実現しないビジネスは画に描いた餅以下の妄想でしかないからです。
逆に、クラウドファンディングを通じて、多くの見込顧客に自らの商品サービスを認知してもらえるというのは、資金調達額以上のメリットがあります。そうした観点からは、むしろマネされる可能性のあるくらいの新規性のある商品・サービスで起業するのであれば、うってつけの資金調達方法といえるでしょう。
融資の審査に通るコツとは
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融資の審査に通るためには、押さえておくべきポイントがあります。融資を申し込む際には、十分に準備して臨みましょう。
創業計画書を立てる
創業計画書は、創業時に融資を申し込む際に作成する必要のある事業計画書です。
融資を受ける際に『お金を貸してください』と伝えるだけでは審査に通る可能性は低いでしょう。どのような事業を行うのか、またその将来性について融資元に説明することで、返済可能であることを理解してもらうために創業計画書を作成します。
経営者の過去の経歴や実績、取り扱うサービスや商品、収益計画などを具体的かつ現実的に記載します。創業計画書をきちんと作成することが、融資を受ける重要なポイントです。
支払いの遅延・滞納をしない
借金やローン、税金などの支払いを滞納すると、信用情報機関のいわゆる『ブラックリスト』に載ってしまいます。融資の審査にあたり金融機関は必ず信用情報を確認するため、信用情報に傷がある場合にはまず審査に通らないと考えた方がよいでしょう。
税金やローンを滞納している場合、『返済能力に乏しい』『金銭の管理を適切にできない』と評価されてしまうのです。
ブラックリストに載っていなくても、預金通帳を見たときに公共料金が毎月定期的に口座振替されているか?とか、着実に開業資金を積み上げているか?などを金融機関は見ています。日々のおカネの管理度合いから改善しましょう。
自己資金を増やす
自己資金が多いということは、それだけ返済負担が小さいと判断され、融資の審査に通りやすくなります。自己資金が少ない場合は、審査に通るどころか、融資の申し込み自体ができない可能性もあるので注意が必要です。
たとえば日本政策金融公庫の融資を受けるためには、融資希望額の1/10の自己資金を有していることが要件とされています。かつこれはあくまで最低条件であり、1/10ぎりぎりの自己資金ではほぼ審査に通らないともいわれています。
他の金融機関の融資を受ける場合でも、自己資金を増やすことで融資希望額の増額や審査の通過につなげやすくなります。自己資金を増やす施策については、創業前から計画を立てて行いましょう。
自己資金の用意方法
自己資金を増やすことは、融資審査においても重要です。また経営状況が良好であることを株主や金融機関にアピールする上でも大切な項目といえます。それではどのように自己資金を用意すればよいのでしょうか。具体的な方法を解説します。
現物資産の時価算定
車や不動産などの現物資産の時価算定も行いましょう。資金の代わりに現物資産で出資することも可能で、これを『現物出資』といいます。
預金が少なくても、価値の高い現物資産を持っていれば、それを自己資産として扱うことができます。現物資産を時価算定し現物出資の手続きを行うのも一つの方法です。
現物出資の対象となる資産についても知っておきましょう。自動車や不動産、ゴルフ会員権やリゾート会員権などは対象となる一方、ローン支払い中の資産や名義を書き換えることのできない保険証券、労働力などの無形のものは対象にはなりません。
ただし、現物出資の金額が大きくなると裁判所が選任した検査役による調査が必要になりますので、ご注意下さい。
開業の基礎知識も知っておこう
開業にあたり個人事業主と法人のどちらを選択するか、悩んでいる人もいるのではないでしょうか。個人事業主と法人それぞれの特徴について知り、自分に合った方を選びましょう。
個人事業主について
個人事業主とは、法人にならずに個人で事業を営む人のことを指します。『開業届』を提出すれば個人事業主として扱われるため、フリーランスであっても開業届を提出すれば個人事業主となります。
個人事業主は、開業手続きや税務申告が簡単な点、開業資金が不要な点など、事業を開始するハードルが低いのがメリットとして挙げられます。事業規模が小さいうちは法人より税金が安く済むでしょう。
反面、社会的信用が低く、中には個人事業主との取引を避ける企業や金融機関もあります。また、利益が大きくなると法人よりも税負担が重くなってしまうのも、個人事業主のデメリットといえるでしょう。
法人について
法人とは、法的手続きによって権利や義務を認められた組織のことです。法人は、地方自治体や公的機関などの公法人と、会社などの営利団体、NPOや宗教組織の非営利団体を含む民間法人の2種類に分類されます。
法人は登記や定款作成など、手続きが個人事業主よりも複雑で、赤字経営でもわずかですが税金の支払い義務が生じます。また社会保険への加入が必須です。
法人になるためには、準備の手間や資金が必要になります。その一方、社会的信用が高い点や、収入に対する税率の累進性が低いという点はメリットです。事業規模が大きくなるほどに、法人である恩恵は大きくなっていきます。
まとめ
個人事業主か法人かによって、開業時に利用できる資金調達方法には差があります。しかし審査の難易度については、わずかな差しかありません。重要なのは、未来を考えて計画的に資金調達を行うことや、自分に適した調達方法を選択することです。
審査に通るためには、創業計画書の作成や信用情報に傷をつけないこと、自己資金をいかに多く集めるかが重要といえます。
民間の金融機関だけでなく公的機関からの融資や、助成金の利用も検討しながら、事業を成功に導きましょう。