個人事業主として事業を営む中で、資金調達が必要になる場面もあるでしょう。ただし、個人事業主と法人では、資金調達の方法に違いがあります。個人事業主と法人の資金調達の違いやそれぞれの特徴、リスクを解説します。
サイト管理者の紹介 山口 真導 (株式会社アカウンタックス 代表取締役) 公認会計士・税理士 『起業5年目までに知らないと損する 節税のキホン』など節税や資金繰りを著書、YouTubeチャンネルによる動画配信するなど社長の手取りをトコトン増やすセミナーなども開催など資金繰りの悩みを節税対策と銀行対策で解決する専門家として活動。 |
個人事業主と法人の資金調達の違い
資金調達をする場合、法人と個人事業主では大きな違いがあります。一般的に法人は資金を集めやすく、個人事業主は資金を集めづらいといわれています。個人事業主の方がリスクが大きい点にも注意が必要です。
個人事業主の方がリスクが大きい
個人事業主のリスクは、法人よりもはるかに大きいといえます。個人事業主は無限責任を負うためで、事業が失敗した場合、個人の財産で返済を行う必要があります。
しかし、法人は、社長とは別個の法律上の人格を与えられています。したがって、法人の責任を社長個人が被ることはないのが、会社法の原則です。しかし、現実には、法人であっても融資を受ける際には、社長の個人保障を付けるのが一般的なため、最終的には社長も個人事業主をと同様に実質的には無限責任を負うことになります。
法人のみ対象の資金調達方法がある
対象が法人のみである資金調達方法もあります。新株を発行し資本を増やす『第三者割当増資』などが代表例です。
その他、公的融資や銀行融資も、融資先を『法人格』としているケースが多くを占めています。その理由は、個人事業主が事業と個人の区分けが不明確なのに対して、法人は事業をするために人格が認められた組織という意味で、貸した資金が事業のために利用されることが個人事業主よりも担保されているためです。
購入型のクラウドファンディングや個人借入は個人事業主でも可能ですが、上記のような資金調達方法は法人のみが対象のケースが多いでしょう。
資金調達は法人が有利?
資金調達方法は法人の方が多い点もあり、一見すると資金調達は法人の方が有利に思えます。しかし、状況によっては必ずしもそうとはいえないようです。資金調達について、法人と個人の違いをより詳しく掘り下げていきましょう。
法人だから簡単なわけではない
資金調達における融資や借入の審査基準は、法人と個人で大きく変わるものではありません。資産状況や経営の状態などによっては、法人であっても審査に落ちることはありえます。
たしかに株式を用いた資金調達方法は、株式会社にしかできません。しかし、法人だからという理由だけで、個人事業主より資金調達が簡単になるわけではないと心得ておきましょう。
法人化するメリットとは?
法人化したからといって資金調達の難易度が下がるとは限らず、また法人登記のコストや社会保険への加入義務など、法人化にはさまざまなデメリットが伴います。それでもなお、法人化することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
一つには社会的信用です。法人は、一定規模以上の事業を行うためにおカネと時間をかけて設立手続をへて誕生します。その意味で、個人事業主とは「本気度」が違います。
これは金融機関からの融資を受けやすくしたり、人材の採用をしやすくしたりするメリットにつながります。
また、助成金や補助金は中小企業への支援を優先しているため、なかには個人事業主を支給対象外としているものもあります。有効活用したい場合は、法人化する方がよいでしょう。
個人事業主は法人化できる?
個人事業主として事業を始めた場合でも、後から法人化することは可能です。これを『法人成り』といいます。
所得が一定以上になると、所得税として支払うよりも法人税として支払った方が税額が安くなる点や、経費にできる項目の増加など、法人にはさまざまなメリットがあるため、法人成りをする個人事業主は少なくありません。
最低資本金制度が撤廃され資本金1円でも会社設立が出来る様になったため、法人化すること自体はそれほど難しくはありません。
それぞれの資金調達方法とは
個人事業主と法人で、それぞれ資金調達方法にはどのようなものがあるのか、具体的に解説します。
個人事業主の場合
個人事業主は法人よりも資金調達における難易度が高いと述べましたが、100%融資を受けられないわけではありません。個人事業主が利用しやすい資金調達方法として、以下を挙げることができます。
- 信用金庫
- 個人事業主も対象のビジネスローン
- 日本政策金融公庫
特に信用金庫は『地域で集めた資金を地域の中小企業と個人に還元することにより、地域社会の発展に寄与する』という理念があるため、個人事業主も融資の対象になり得ます。
また最近は個人事業主でも申し込めるビジネスローンが増えています。日本政策金融国庫や公的融資よりも審査スピードが早いのがメリットです。
法人の場合
法人の創業初期におすすめの資金調達方法として以下があります。
- 日本政策金融公庫の創業融資
- 信用金庫・信用組合からの融資
- 銀行融資
- エンジェル投資家からの出資
- 助成金や補助金
日本政策金融公庫の創業融資は、無担保・無保証で借入が出来ます。つまり、原則通りに、オーナー社長は出資額以上の責任を負わない「有限責任」ということになります。まずは、この融資を受けるようにしましょう。
つぎに、個人事業主と同様に、地域に根ざした信用金庫、信用組合からの融資を狙いましょう。銀行からの融資より金額が小さかったり金利が高かったりするかもしれませんが、その分、相手も経済合理性以外の観点も含めて親身になって支援してくれる傾向があるため、創業期には力になってくれると思います。
銀行からの融資は低金利で高額融資が受けられる場合もあるため、ある程度事業規模が大きくなってきたら積極的に活用したい資金調達方法です。エンジェル投資家による投資も、スタートアップ企業には非常に役立つでしょう。しかし、エンジェル投資は議決権を手放すことにもつながりますので、安易に利用するのは控えた方が良いでしょう。
また、中小企業の場合は助成金や補助金の対象となるケースが多いため、対象となっている場合は積極的に利用することをおすすめします。
融資の審査に通りやすくなるコツ
融資の審査に通るかどうかは、事業計画や事業の将来性に大きく関わります。審査に通りやすくするためには、どのようなポイントを押さえておけばよいか知っておきましょう。
自己資金を増やす
一例として日本政策金融公庫の場合、創業資金総額の10分の1の自己資金を確認できることが申込要件に定められています。つまり、融資希望額の10分の1の自己資金がなければ、そもそも融資に申し込むこと自体ができません。
このように、創業資金あるいは運転資金における自己資本比率は、融資の審査に大きな影響を与えます。自己資本が融資希望額に対して低い場合は、返済が難しいと判断されて融資の審査に落ちやすくなってしまうのです。
自己資金の割合は、通常融資では売上の3分の1程度と一般的にはいわれています。自己資金を貯める能力があるということは返済能力もあると判断され、融資が通りやすくなる傾向があります。
事業計画書をきちんと作る
自己資金とともに審査において重要なポイントとなるのが、事業計画の作り込みです。事業計画の作り込みが甘いなどの理由から『事業の成功可能性が低い』と判断されてしまえば、返済する見込みが立たなくなり、融資の審査に通らなくなります。
返済可能な事業であることをアピールするためにも、事業計画書を綿密に作り上げることが求められます。
税金やローンなどの支払いを遅延しない
個人的な借金があるからという理由で審査に落ちる可能性はまれですが、税金やローンの支払いが滞っている場合は、審査に落ちる可能性は十分にあります。
そうした信用情報の傷は信用情報機関のデータベースに登録され、5年程度は情報が残り続けるからです。『返済能力がない』『金銭管理ができない』という印象を相手に与えてしまうのは、審査の際に致命的です。
融資を受けたいと考えている場合は、税金やローンの支払いを遅延しないように注意しましょう。
まとめ
個人事業主と法人の資金調達の違いから、メリットなどについて解説しました。信用などの面から法人の方が資金調達が行いやすいため、利益の規模が大きくなってきたら『法人成り』することで、より効果的に融資を受けることができます。
また、株式を利用して資金を調達したい場合についても、個人事業主には不可能です。資金調達を容易に行いたいと考えている場合には、積極的に法人化することをおすすめします。