通信費は仕事でも私生活でも使用するため、個人事業主が経費計上するには家事按分が必要です。家事按分比率は使用日数や時間など、客観的・合理的な基準を定めましょう。通信費の家事按分条件と計算方法、税務調査などで注意すべき点を解説します。
サイト管理者の紹介 山口 真導 (株式会社アカウンタックス 代表取締役) 公認会計士・税理士 『起業5年目までに知らないと損する 節税のキホン』など節税や資金繰りを著書、YouTubeチャンネルによる動画配信するなど社長の手取りをトコトン増やすセミナーなども開催など資金繰りの悩みを節税対策と銀行対策で解決する専門家として活動。 |
家事按分とは
個人事業主として活動し、自ら会計管理を始めると『家事按分』を意識する必要があります。必要経費の計算をするうえで、この家事按分が正確にできているかどうかが、節税に大きく影響するためです。
そもそも家事按分とはどんなものなのか、基礎知識を身につけましょう。
生活費と事業費の区別がつかない支出に利用
家事按分とは、プライベートと事業の両方で発生する支出に対して使われる経費の処理方法です。
例えば、自宅兼事務所で活動している個人事業主は、家賃や光熱費、通信費などが家事按分の対象となります。自家用車を事業用にも使っている場合は、自動車の購入費用や維持費も家事按分の対象となります。
事業用途の割合に応じて経費計上が可能
家事按分は、経費計上したい対象がどれほどの割合で事業に使われているかを定め、比率分を経費計上する方法です。
例えば、自宅の床面積のうち事業用に使っている床面積の割合が最も実際の経費負担の割合を示しているのであれば、その分を地代家賃として経費計上します。水道光熱費や通信費も、使用時間や日数など、実際の事業活動に使われている割合を最も合理的に示している比率で計算します。
個人事業主の事業用支出に、少しでも生活費の要素が混ざっていれば一切経費として認めない、という対応ではなく、ある程度合理的な範囲で経費として認める考え方をしているのです。
したがって、事業主の定めた按分比率が合理的で正当な基準に基づいていると判断できる場合、家事按分は認められます。
青色申告と白色申告では条件が異なる
個人事業主が所得を申告する際、申告方法が『青色申告』か『白色申告』かによって家事按分のルールが異なる点に注意が必要です。
青色申告の場合は、個人事業主が合理的に判断した割合で家事按分された経費は、ほとんど認められます。たとえ事業用途として使われる割合がほんのわずかであったとしても、比率分はきちんと経費計上が可能です。
一方で白色申告は、事業で使われる割合が50%を超えているか、もしくは対象物の生活費・事業費の使用割合を明確に区別できなければ、家事按分として認められません。
白色申告でも明確に区別出来れば家事按分は認められるので、青色申告の場合と変わりはありませんが、細かく分けると上記のような家事按分による節税効果の違いがあるため、青色申告の方が有利です。
通信費を家事按分する条件
家事按分できる支出の中でも、通信費はその使用用途が広い分、複雑です。また、一見『通信』のイメージのない支出にも、通信費の勘定科目を使用する場合があります。
合理的な基準で家事按分するためにも、通信費を家事按分するための条件を正確に押さえておきましょう。
通信費に仕訳できる支出
通信費として経費計上できる支出としては、電話代やインターネット料金、プロバイダの初期費用、ドメイン維持費などがあげられます。そのほかにも一見通信費に思えないような、テレホンカード代やFAX代、切手代も含まれる点に要注意です。
会計処理上、通信費は事業のために取引先と連絡を取るための支出であるため、一般的な『通信費』の認識よりも幅があると覚えておきましょう。
同じ理由から、商品を発送しない宅配便や郵便の送料も通信費に含まれます。取引先に物品を郵送する場合、何が目的であるかによって勘定科目が変わるのです。
間違えやすい仕訳に注意
一見通信費として扱ってしまいがちな、間違えやすい支出があります。例えばFAX用紙やコピー用紙、はがきや便箋を購入する費用は『消耗品費』です。
取引先や顧客に対してダイレクトメールを送付する場合、販売促進が目的のため『広告宣伝費』、事業主として送付する祝電やお悔やみの電報は『交際費』に分類されます。
また、物品を発送する際に発生する送料は、商品の発送など売上に関係するなら『荷造運賃』です。切手と同じく郵便局で購入できる収入印紙は、通信費ではなく『租税公課』にあたります。
さらに、通常は通信費として計上できるテレホンカードを宣伝のために利用すれば『広告宣伝費』となり、取引先へのギフトとした場合は『接待交際費』です。同じ物品でも、目的が違えば勘定科目が変化する場合があるため注意しましょう。
ネットやスマホ代は使用状況に応じて経費化
通信費の中でも、ほとんどの個人事業主が使用するのがネット使用料やスマホです。これらはプライベートでも使用するため、使用状況に応じて家事按分し、事業割合分を経費にします。
家事按分の比率は個人事業主の判断にゆだねられていますが、事業に使用した日数や時間の割合で家事按分する場合が多いです。
1週間のうち、事業のために何時間スマホやネットを使っているか、何日間事業活動をしているのかなどが基準となります。決まりはありませんが、事業主が適切だと思う計算を行いましょう。
スマホ本体代も家事按分可能
事業でもプライベートでも同じスマホを使っているのであれば、スマホ本体代も使用割合に応じて家事按分できます。
月の通信費と合算して、スマホの本体代金を分割払いしているケースもあるでしょう。この場合は、月額通信費と本体代金を分離するのではなく、まとめて家事按分したものを通信費として計上して問題ありません。
ただし、スマホ関連で決めた按分の割合は統一するようにしましょう。スマホをビジネスで8割使用しているのであれば、月額通信費も本体代金も8割の按分です。
スマホケースなどのアクセサリー類は、通信費ではなく消耗品費となるケースが多いため要注意です。
通信費の家事按分方法
通信費を家事按分する場合は、個人事業主が仕事とプライベートのそれぞれでどの程度利用しているのか、何らかの方法で割合を算出する必要があります。一般的には、使用日数と使用時間で算出している人がほとんどです。
ここでは通信費の家事按分方法を具体的に解説します。自分の事業内容や使用方法によって、どちらの計算方法が適しているか考えましょう。
使用日数で計算
常にインターネットに接続し続けるような事業内容の場合、使用日数で計算した方が分かりやすいものです。まずは年間のインターネット使用料金と、1週間のうち事業活動している日数を確認しましょう。
例えば、1週間のうち平日の5日間稼働している個人事業主がいたとします。5÷7=約0.7となり、家事按分比率は70%です。
年間のインターネット利用料金が8万円であれば、その70%の5万6,000円を通信費として計上できます。
使用時間で計算
全体のインターネット使用時間のうち、どの程度が事業用の使用時間なのかを割り出して計算する方法もあります。
必要なのは、年間のインターネット使用料金と、1週間でインターネットを使用した時間、そのうち事業でインターネットを使用した時間の3点です。
例えば、1週間でネットを使用した時間が70時間、そのうち事業で使用したのが40時間の場合、計算式は40÷70=約0.6で、家事按分比率は60%です。
年間インターネット利用料が8万円であれば、その60%の4万8,000円を通信費として計上できます。
通信費を家事按分する際の注意点
事業内容にかかわらず、通信費はほとんどの個人事業主に関係してくるものです。経費としてしっかり計上することで節税につながりますが、一方で注意すべき点も多いため覚えておきましょう。
客観的・合理的な基準を決める
家事按分は、比率の決め方を個人事業主の判断にゆだねられています。だからこそ、第三者が見ても納得できる客観的・合理的な基準を定めておく必要があるのです。
『なんとなくこのくらいの割合だろう』『知り合いが同じくらいの家事按分比率を設定していた』といった理由では客観的・合理的とはいえません。
特に有効なのは、証拠となる数字を準備しておくことです。インターネット使用料金の請求書や、各通信費を使いながら今までこなした案件の内容、活動した時間や人数などを示す資料は、家事按分比率を設定する際に役立ちます。
税務調査により否定される可能性がある
個人事業主の経費計上は厳格なルールがあるため、なんでもかんでも家事按分して経費にできるわけではありません。たとえ一度提出した確定申告が通っても、税務調査の際に、設定した家事按分比率が合理的でないと判断されれば、税務署から修正申告をするようにいわれてしまいます。
税務調査が入ると、確定申告時に自己申告した按分比率が適正かどうかも調査の対象になるということです。
家事按分の割合が実際より多かったり、そもそも生活費を経費に計上したりしていれば、税務署からの指摘により追徴課税を払うなどの罰則を受ける結果になるでしょう。意図的に家事割合を減らした申告は調査対象となりやすいため注意が必要です。
まとめ
仕事と生活の境界があいまいになりがちな個人事業主にとって、家事按分は経費の金額を大きく左右する大切な考え方です。
通信費の家事按分は客観的・合理的に基準を定めることが大切です。もれなく正しく経費計上して、節税につなげましょう。