夫が自営業で妻が会社員の場合は、妻が配偶者控除の適用を受けられる可能性があります。自営業と会社員では条件に違いがあるため、正しい知識を身に付けておけば、無駄を省けるでしょう。配偶者控除の要件やケース別の考え方について解説します。
サイト管理者の紹介 山口 真導 (株式会社アカウンタックス 代表取締役) 公認会計士・税理士 『起業5年目までに知らないと損する 節税のキホン』など節税や資金繰りを著書、YouTubeチャンネルによる動画配信するなど社長の手取りをトコトン増やすセミナーなども開催など資金繰りの悩みを節税対策と銀行対策で解決する専門家として活動。 |
配偶者控除・配偶者特別控除の対象とは?
配偶者の年収が一定額以下の場合は、納税者の所得金額に応じた所得控除を受けられます。配偶者控除や配偶者特別控除の対象となる条件を確認しましょう。
配偶者控除の対象
税法上の控除対象となる配偶者がいる場合に、一定額の所得控除を受けられる制度が配偶者控除です。控除を受ける年の年末時点で以下の条件を全て満たした配偶者が、控除の対象となります。
- 年間合計所得金額が480,000円以下であること
- 民法で定められた配偶者に該当すること(内縁関係は対象外)
- 納税者と日常生活の資を共にしていること(=お財布が一緒ということです)
- 控除を受ける年に青色申告者の事業専従者として給与をもらっていないこと。または白色申告者の事業専従者ではないこと
配偶者の収入が給与のみの場合は、給与収入が1,030,000円以下なら控除の対象となります。1,030,000円という金額は、480,000円と給与所得控除550,000円の合計です。
平成30年以降の分に関しては、納税者の合計所得金額が10,000,000円を超える場合は控除を受けられません。
配偶者特別控除の対象
配偶者が給与収入1,030,000円を超える会社員なら、年収の条件を満たさないため配偶者控除の対象外です。ただし、合計所得金額が480,000円超1,330,000円以下であれば、配偶者特別控除の適用を受けられます。
配偶者特別控除は、配偶者控除の適用外となった納税者が、税負担の急激な増加で困らないようにするための制度です。配偶者の所得が950,000円以下なら満額控除が適用され、950,000円を超えると年収が増えるにつれて控除額も減っていきます。
配偶者特別控除の適用条件は、年収の条件以外は配偶者控除と変わりません。年末調整や確定申告での手続き方法・必要書類も、配偶者控除の場合と同じです。
納税者の夫(妻)が自営業の場合
自分が会社員で夫や妻が自営業のケースにおける、配偶者控除の考え方について解説します。配偶者が会社員の場合との違いも押さえておきましょう。
配偶者控除の対象になる
納税者の配偶者が自営業の場合も、一定の要件を満たせば配偶者控除の対象になります。年間合計所得が480,000円以下であれば控除を受けることが可能です。
自営業者の所得は、収入から必要経費を差し引いて算出します。例えば、年間収入が1,000,000円で必要経費が600,000円の場合は、所得が400,000円となるため控除対象です。
自営業の夫または妻の年間所得が480,000円を超えていても、1,330,000円以下に収まっているなら配偶者特別控除が適用されます。配偶者が給与所得者なら給与収入で、自営業なら所得で判断できることを覚えておきましょう。
青色申告特別控除も適用
自営業の配偶者が青色申告で確定申告を行っているなら、青色申告特別控除を適用できます。青色申告特別控除とは、100,000円・550,000円・650,000円のうちいずれかの金額を所得から控除できる制度です。
事業開始時に『開業届』と『青色申告承認申請書』を提出すれば、青色申告事業者として控除額を差し引けます。550,000円または650,000円の控除を受けるためには、複式簿記で記帳しなければなりません。
特別控除が適用されれば、収入から必要経費を差し引いた後、さらに特別控除の金額を差し引けます。
控除される金額は?
配偶者控除で所得から差し引かれる金額は以下の通りです。納税者の所得金額が10,000,000円を超えるケースでは、配偶者の所得にかかわらず控除を受けられません。
納税者の合計所得金額 | 控除額 |
9,000,000円以下 | 380,000円 |
9,000,000円超9,500,000円以下 | 260,000円 |
9,500,000円超10,000,000円以下 | 130,000円 |
配偶者特別控除で控除される金額も下記の表で確認しておきましょう。納税者の所得金額が9,000,000円以下の場合の控除額です。
配偶者の合計所得金額 | 控除額 |
480,000円超950,000円以下 | 380,000円 |
950,000円超1,000,000円以下 | 360,000円 |
1,000,000円超1,050,000円以下 | 310,000円 |
1,050,000円超1,100,000円以下 | 260,000円 |
1,100,000円超1,150,000円以下 | 210,000円 |
1,150,000円超1,200,000円以下 | 160,000円 |
1,200,000円超1,250,000円以下 | 110,000円 |
1,250,000円超1,300,000円以下 | 60,000円 |
1,300,000円超1,330,000円以下 | 30,000円 |
会社員の配偶者控除との違い
配偶者が会社員・パート・アルバイトなど給与所得者の場合は、給与収入が1,030,000円以下なら控除対象となります。給与所得控除550,000円を引くと、年間所得が480,000円以下になるためです。
自営業と給与所得者では、年収が判断材料になるかどうかという点が異なります。給与所得者には必要経費の概念がないため、年収が1,030,000円を超えれば控除は受けられません。
一方、自営業の場合は必要経費の金額により所得額が変わります。収入金額がどれだけ大きくなっても、必要経費を差し引いて所得が480,000円以下になれば、配偶者控除を受けることが可能です。
配偶者控除の気になる疑問
配偶者控除を受ける際は、配偶者の年収に含まれるものを確認しましょう。社会保険の扶養に入れるかどうかの考え方も解説します。
年収に含むものとは?
配偶者控除を受けるための年収を計算する際は、年収に含むべきものと含めなくてよいものを分ける必要があります。
産前・産後休業や育児休業で受け取れる一時金・手当金・給付金は、いずれも非課税扱いとなるため年収には含まれません。離職中に支給される求職者給付金も年収の対象外です。
職場から支給される通勤手当も、1カ月あたりの金額が150,000円を超えなければ、収入として扱う必要はありません。ただし、社会保険料の標準報酬月額の計算をする際は、通勤手当も年収に含まれます。
配偶者が自営業の場合は扶養に入れない?
配偶者が自営業でも、所得が一定額を超えなければ扶養に入れます。健康保険や年金といった社会保険の扶養に関しては、所得額1,300,000円が一般的な基準です。
給与所得者なら給与収入が基準となりますが、自営業の場合は収入から必要経費や青色申告特別控除額を差し引いた所得を基準にできます。所得が1,300,000円を超えれば扶養に入れないため、自分で社会保険料を負担しなければなりません。
税金面の扶養に関しては、配偶者控除の対象になるなら扶養に入っていることになります。納税者に扶養親族がいる場合は扶養控除の適用を受けられますが、そもそも配偶者は扶養親族に該当しないため、扶養控除の代わりに配偶者控除が適用されます。
確定申告での配偶者控除の申請方法
自営業の夫が会社員の妻を対象とした配偶者控除を受ける場合は、確定申告を行う必要があります。必要書類や書き方をチェックしておきましょう。
配偶者控除に必要な書類
会社員が配偶者控除を受ける場合は、年末調整で申請すれば手続きは完了します。一方、自営業が控除を受けるケースや、会社員でも年末調整の申請を忘れたケースでは、確定申告を行わなければなりません。
配偶者控除に必要な書類は、給与取得者なら確定申告書A、自営業の場合は確定申告書Bです。その他の添付書類などは特に用意する必要がありません。
ただし、納税者の所得額や配偶者のマイナンバーを記入しなければならないため、確認のために納税者の源泉徴収票や配偶者のマイナンバーカードは準備しておきましょう。
配偶者控除の書き方
確定申告書における配偶者控除の書き方は、AとBのどちらも同じです。第一表では、『所得から差し引かれる金額』の『配偶者(特別)控除』に控除額を記入します。
区分の欄には、配偶者控除の場合は記入せず、配偶者特別控除の場合のみ『1』と記入しましょう。配偶者特別控除を受ける場合は、『その他』の『配偶者の合計所得金額』に所得額も記入しなければなりません。
第二表では、『配偶者や親族に関する事項』の欄に、配偶者の氏名・生年月日・マイナンバーなどを記入します。控除の種類も該当するものにチェックを入れましょう。
まとめ
夫が自営業でも、一定の条件を満たせば妻が配偶者控除を受けることは可能です。夫の年間合計所得が480,000円以下なら、控除の適用を受けられる可能性があります。
確定申告を青色申告で行っているなら、青色申告特別控除を適用してさらに所得金額を減らすことが可能です。制度の仕組みをきちんと理解し、配偶者控除を節税に役立てましょう。