開業時には何かと出費がかなさるので、何とか経費として計上できないだろうかと考える個人事業主も少なくないでしょう。また開業時の支出の仕訳方法が分からず、困っている方もいるかもしれません。
そこで「開業費」について、いつからいつまで開業費扱いになるのか、開業費の対象となる費用について詳しく説明していきます。開業費の償却における白色申告と青色申告の違いについても述べているので、併せてご覧ください。
サイト管理者の紹介 山口 真導 (株式会社アカウンタックス 代表取締役) 公認会計士・税理士 『起業5年目までに知らないと損する 節税のキホン』など節税や資金繰りを著書、YouTubeチャンネルによる動画配信するなど社長の手取りをトコトン増やすセミナーなども開催など資金繰りの悩みを節税対策と銀行対策で解決する専門家として活動。 |
もくじ
開業日はいつになる?開業届を出すタイミング
開業日の決め方
事業を開始する際は、原則として税務署に「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出します。開業届には「開業日」を記載する項目がありますが、明確に何日に設定するなどの決まりはありません。
そのため宣伝活動を始めた日や、お店ならオープンする日を記載するケースもあるようです。ただし許認可や資格の登録が必要な職業の場合、許認可日や登録日より前に開業できないケースもあるので確認しておきましょう。
開業届の提出は開業後1ヶ月以内
開業届をいつ出したらよいのか、迷っている個人事業主もいるかもしれません。開業届を出すタイミングは、事業開始から1ヶ月以内だとされています。とはいえ、1ヶ月を過ぎてから開業届を提出しても、処罰はありません。
事業所得が発生した時点で、開業届を出すとタイミングを逃さずに済むでしょう。
開業費と経費は違う!開業前の費用を計上するコツ
開業費とは
開業費とは、営業開始までにかかった支出です。しかし経費として計上せずに、一旦は「繰延資産」に分類され資産計上されるのが特徴です。
これは、開業費を一度に経費にする方法と少しずつ経費にする方法の選択が認められているからです。
業種にもよりますが、開業するにあたって名刺や広告費、通信費など何かと費用がかかるでしょう。開業費として計上できるものを確認し、必要に応じて領収証やレシートを保管しておくと、会計の入力で役立ちます。
開業費の対象はいつからいつまで?
事業を始める上で多くの出費が出るはずなので、できるだけ開業費として償却できるようにしたいとは思いませんか。しかし開業届を出すのは開業から1ヶ月以内だと定められていますが、開業費はいつからいつまでを対象にして良いのか迷ってしまう方もいるかもしれません。
実は開業費の対象範囲は広く、証明できれば基本的に認められます。申請する際の上限額も設定されていないため、常識を超えない程度に計上すると良いでしょう。
その一方で下記のような例外もあるので、注意しなければなりません。
・後で返還される敷金
・10万円以上の固定資産
・商品の仕入代金
これらは開業費として認められないので、頭に入れておきましょう。
開業費の仕訳は繰延資産として償却
開業費は、「繰延資産」として分類して仕分けます。事業を始めた年だけでなく、長期的に必要な経費という考え方で仕分けるため、数年かけて償却していくのです。また会計上と税法上の考え方があるので、ご覧ください。
会計上 | 5年で均等償却 |
税法上 | 任意償却 |
任意償却とは、その年にどのくらい償却するかを自由に決められる償却方法です。赤字になりそうな年は償却費をゼロにする、もしくは黒字の年に全額償却して節税対策をするなどと選ぶことができます。
開業前の経費は明細ごとに入力しよう
開業費を明細ごとに入力しておくと、あとから何にいくらかかったのか確認しやすいでしょう。もしくは、開業費の詳細な内訳を別途作成している場合は、まとめて集計し入力しても問題ありません。
例えば、以下のように入力可能です。
【仕分け例:個人事業主】
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
開業費 | 21,462円 | 元入金 | 21,462円 | 9/17 事務用品、備品 |
開業費 | 9,000円 | 元入金 | 9,000円 | 9/20 打ち合わせ、セミナー代 |
勘定科目に「開業費」と入力すると、会計上で資産が増えた状態になります。
また開業費を償却する際の仕訳は、以下の通りです。
借方(かりかた) | 借方金額 | 貸方(かしかた) | 貸方金額 | 摘要 |
繰延資産の償却費 | 21,462円 | 開業費 | 21,462円 | 償却額 |
※会計ソフトによっては開業費を入力した時点で、繰延資産への登録や償却の仕訳処理までしてくれます。
開業費償却の違いとは?白色申告と青色申告
白色申告は赤字を繰り越せない
白色申告は、赤字を繰り越す「損失申告」ができません。そのため節税対策を講じる場合は、赤字か黒字かによって開業費の償却額を調整して申告する必要があります。
白色申告で開業費を償却する際の、シミュレーションをご覧ください。
開業から1年目 | 赤字(売上50万円)、開業費を引くと-10万円 |
開業から2年目 | 黒字(売上100万円) |
開業費 | 60万円 |
仮に上記の設定で、シミュレーションを行ないます。
所得税は所得に対して課されるため、赤字の1年目は税額がゼロになり節税対策を講じる必要がありません。つまり赤字の年に、開業費を償却するのは非常にもったいない話になります。
ただし黒字の2年目では100万円の売上が出ているため、この年に開業費を償却すれば所得額を減らすことができて節税可能です。
また白色申告には開業届を提出する必要もなく、確定申告の手続きを比較的簡単に終わらせることができます。
青色申告は赤字を繰り越せる
青色申告は翌年以降、3年間にわたって赤字を繰り越すことが可能です。そのため開業の1年目が赤字で翌年黒字になった場合は、繰り越して所得額を減らせるようになっています。
青色申告で開業費を償却する際の、シミュレーションをご覧ください。
開業から1年目 | 赤字(売上50万円)、開業費60万円を引くと-10万円 |
開業から2年目 | 黒字(売上100万円) |
開業費 | 60万円 |
仮に上記の設定で青色申告をすると、以下のようになります。
1年目の赤字10万円分を翌年に繰り越して、「売上100万円ー10万円=残り90万円」の計算で所得額を減らせる仕組みです。さらに開業費の償却もできるため、節税効果が高まるでしょう。
開業前の経費|開業費含まれる項目
名刺に作成にかかった支出
名刺を作成する上で、印刷料やデザイン料が発生するでしょう。開業に向けて作成した名刺であれば、開業費に含めて申告できます。
セミナーや打ち合わせの支出
開業のために参加したセミナーや打ち合わせは、開業費に該当します。また参加する上で支払った飲食代やレンタルした会議費も対象になるのです。
すでに営業を始めている場合は、取引先との交際費や会議費、接待費なども会議費として計上できることを覚えておきましょう。
チラシやネット広告料
開業時は集客やPRをするために、チラシポスターの作成、広告に大きな支出が発生しやすいでしょう。その場合は一般的に、「広告宣伝費」として勘定科目に入力します。
しかし開業前にかかった支出なら、開業費としての計上も認められるのがポイントです。
市場や販売状況の調査費
・提供するサービスや商品の市場調査
・消費者の動向
事業を始める前に、上記のような調査が欠かせません。調査をするための、業者への手数料や調査費、購入した業界紙の費用なども開業費に含まれます。
Webサイトの構築費用
名刺代わりや集客の手段で、Webサイトを構築する個人事業主も少なくありません。Webサイトの構築にかかった支出も、開業費の対象です。
ただし仮にホームページに顧客管理システムやネットショップ機能を付けるために10万円以上のソフトウェアを導入すると、「減価償却資産」となる場合もあるので注意が必要です。その際は、「減価償却費」として経費処理されるので、開業費の対象外です。
パソコン購入代
パソコンや事務用機器などの備品代も、開業に向けて購入したのであれば開業費になります。しかし10万円以上を超える場合は、固有固定資産として減価償却するので開業費に含めることは出来ません。覚えておきましょう。
開業前の経費|開業費に含まれない項目
開業費にならない費用もあるので、事前にチェックしておきましょう。
1.撤退時に返却されるもの
事務所や店舗の敷金や礼金は、後から返却されると予想できるためそもそも経費として計上できません。礼金は後から戻ってこない費用ではありますが、取り扱いが異なるため注意が必要です。
・礼金20万円以下→支払手数料
・礼金20万円以上→繰越資産
2.仕入費用
販売目的で仕入れた商品の経費は、「売上原価」に該当します。利益を得るための費用なので、開業費にはなりません。
3.10万円以上する固定資産
10万円以上する備品や消耗品は、原則、資産として計上します。固定資産の種類や耐用年数によって、償却期間が異なるので確認しなければなりません。
開業前の経費|法人と個人事業で考え方が違う?
開業費の考え方は、法人と個人で異なる点があります。個人事業の場合は、開業時の特別な支出と経常時(一定の間隔や頻繁に)発生する費用も開業費に含めることが可能です。
経常時に発生する費用として、以下の項目が挙げられます。
・事務所や店舗の家賃
・水道光熱費
・電話やインターネットなどの通信費
・事務用品や備品
しかし法人の場合は、経常時にかかる費用が設立事業年度の経費という扱いになります。また法人だと、会社設立時の支出を「創立費」として仕訳を行なうのもポイントです。
創立費の一例 | ・会社設立の経費 ・定款の作成費や登記を申請するための登録免許税 ・設立前の社員の給料 ・印鑑証明書の発行手数料 ・銀行の口座開設手数料 |
上記は創立費の一例なので、仕訳に迷ったら一つずつ確認していくと良いでしょう。
開業費を計上するメリットは節税対策!
開業費をきちんと計上すると、課税対象の所得を減らせるため節税効果を得られます。開業費を均等償却にすると、毎年少しずつ経費として償却できるのです。
また任意償却を選ぶと、黒字の年で多めに開業費を償却するといった賢い節税対策も講じることができます。
開業時は大きな出費が重なりやすいので、節税対策は必要不可欠です。一つ一つを忘れずに計上するために、領収証やレシートを保管しておきましょう。
まとめ
開業する際は、原則1ヶ月以内に届け出る必要があります。節税対策で赤字の繰り越しができる「青色申告」を検討している場合は、開業届の提出が必須なので忘れないようにしましょう。
開業時に発生した名刺代や広告費、打ち合わせの費用などは「開業費」として計上するのが一般的です。通常の経費と扱いが異なるため、繰越資産として数年かけて償却していきます。
ただし開業費に含まれるものと含まれないものがある上に、法人と個人事業でも考え方に違いがあるため、一つ一つの費用について仕訳の方法を確認すると良いでしょう。
節税対策として、開業費の計上は必要不可欠です。課税対象の所得をできるだけ減らすためにも、領収証やレシートを保管し、明細ごとに帳簿付けをしておいてください。