個人事業主は、事業をスムーズに運営するためにも、経費に関する基礎知識を身につけておきましょう。経費になる支出とならない支出を把握し、正しく会計すれば節税にもつながります。経費計上の基本とメリット・デメリット、注意点を解説します。
もくじ
個人事業主の経費
今さら聞けない経費の基礎知識
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個人事業主として活動する以上、どうしても求められるのが経費に対する意識です。法人と同じく当たり前のように発生する経費ですが、そもそも経費とは何か、何をどう計上すればいいのかなど、基礎知識を教わる機会はあまりありません。
ここではまず、経費に関する初歩中の初歩をしっかり押さえておきましょう。
事業を営む上で必要な支出
経費とは事業を運営するために必要な支出全般を指します。経費の幅は非常に広く、事務所で使う消耗品、従業員の給料、交通費のほか、取引先と打ち合わせした際の飲食代なども含まれるのです。
事業に必要な支出は、事業内容や仕事の特徴によって異なります。また、個人事業主は事業とプライベートの活動の境界が曖昧になっているケースも多く、どこまで経費に計上するかは、本人の判断に委ねられるところも大きいのです。
個人事業主の生活費の一部は家事按分の対象
個人事業主の生活と事業運営の両方の要素を持つ支出の場合は、事業に用いる割合に応じて経費として計上する『家事按分』を行います。按分比率は項目ごとに決まっているわけではなく、個人事業主本人が設定可能です。
よく家事按分の対象になる項目は、居住面積と事務所面積で按分することが多い家賃、仕事用コンセント数や業務時間で按分する電気料金が挙げられます。事業内容によっては、ガスや水道料金、通信費が経費になるケースもあるでしょう。
自家用車を事業用にも使っている場合は、自動車の購入費のほか、駐車場料金やガソリン代、さらには自動車税・車検代も家事按分できます。
売上原価と経費の違い
商品を作るために必要な原材料や運搬するための送料は経費ではなく『売上原価』という扱いです。品物を生産し売買する事業を営んでいる個人事業主は覚えておく必要があるでしょう。
売上原価とは、販売する商品に直接かかる費用であり、商品の『売上』から『売上原価』を引けば、かかったコストを差し引いた純粋な利益のみが算出できます。
例えば知名度向上のためサンプルや無料配布を行う場合、仕入れた原材料は『広告宣伝費』として計上します。
個人事業主の経費
経費として認められる条件は?
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個人事業主の事業に関係する支出を、経費として計上するための条件を3点解説します。きちんとルールを守らなければ、不正を疑われて税務調査の対象となる場合もあるため注意しましょう。
必要な書類を受け取り保管する
経費が発生した場合は、発行された領収書やレシートなどを捨てずに保管しておく必要があるとよく言われていますが、領収書の保管義務は消費税法にのみ定められていて所得税法(法人税法も)には領収書の保管義務はありません。
しかし、免税事業者であっても領収書があった方が、税務調査の際に、経費の存在を説明するのに楽なので保管しておいた方が望ましいです。
会計帳簿の保管義務はあります。仕訳帳、総勘定元帳が対象となります。
個人事業主の領収書やレシートなどの書類は、確定申告時の形式によって保管期間が決まっています。白色申告の場合は5年間、青色申告の場合は7年間の保管が原則です。
記載が必要な内容
経費が発生した証拠となる書類は、領収書やレシート以外でもかまいません。発生した日付と金額、お金をやり取りした相手の氏名・住所などの情報、経費の使い道が明確に記されていれば、正式な書類として認められます。こちらも前述で述べた通り、領収書の保管義務は消費税法にのみ定められていて所得税法(法人税法も)には領収書の保管義務はありません。
そのためネットで商品を購入した場合、購入履歴や注文詳細が記された取引確定メールなども証拠として認められているのです。
領収書やレシートがない場合
経費の中には、領収書やレシートなどの書類が発行されないケースもあります。領収書がなくても、事業に必要で正当な経費である場合は、出金伝票に内容を記載しておきましょう。
よくある例として現金購入した電車の切符代や、取引先におごった自動販売機のドリンク、事業に関わりのある人の結婚祝いや香典などの慶弔費には領収書が出ません。
領収書やレシートをもらい損ねたり、紛失してしまったりした場合でも、会社で作る経費精算書に似たものを作れば出金伝票として認められます。出金伝票に必要な情報は日付・金額・支払先・経費の詳細です。出金伝票は文具店や百均で簡単に手に入るため、いざというときに備え用意しておきましょう。
個人事業主の経費
経費計上するメリット・デメリット
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ビジネスをしていると、個人事業主と飲食を共にした際「経費で落とすから気にしないで」という言葉を聞き、疑問に思ったことがある人もいるのではないでしょうか。
事業の支出を経費計上できるからといっても、お金を払うことには変わりありません。では、経費計上することにはどんなメリットがあるのか、逆にどんなデメリットが発生するのかを理解しておきましょう。
節税につながる
事業を運営し利益が出れば出るほど税金が多く課せられます。事業によって生み出された収益から、収益を出すまでにかかった必要経費を差し引けば、純粋な利益が算出されるのです。
つまり、経費を計上する金額が大きいほど利益が小さくなるため、課せられる税金を抑えることができます。
やりすぎると融資を受けづらくなる
節税を意識して経費を計上しすぎると、決算書上は事業の運営状況が悪く見えるため、社会的信用が落ちて融資を受けにくくなる
と言われていますが融資の基準は赤字や節税だけで判断されるわけではありません。過去の実績より、将来、借りたお金を返せるかどうかが審査の対象です。以上を踏まえ事業についてきちんと金融機関に説明を行えば融資を受けることは可能です。
個人事業主が経費計上できる支出
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個人事業主が経費計上する場合は、事業に必要だと第三者から見て認められる支出でなければいけません。
個人事業主が経費計上できる支出として、ポピュラーなものを以下に4点挙げました。
営業活動や広告宣伝にかかる費用
自身の事業や商品の認知度を高めるための営業活動や広告にかかった費用は、直接的な利益につながらなくても経費として認められます。ポスターやチラシ、WEB広告、名刺作成などにかかる費用は広告宣伝費です。
また、従業員や取引先・得意先と打ち合わせや接待を行う際に発生した飲食代や、結婚式・葬儀のお祝い金や香典、お年賀やお中元など、取引関係の維持や向上に必要な支出は接待交際費として経費計上が可能です。
参加者1人あたり5,000円以下の飲食代や、会議室のレンタル費用などは会議費にできます。営業活動のために従業員を雇っている場合、給与や賞与、福利厚生費は、経費の中でも人件費という扱いです。
通信費や光熱費などの運営費用
ビジネスに欠かせない通信費や光熱費など、事務所の運営のために必要な支出も当然ながら経費となります。インターネットプロバイダーの利用料金や携帯電話料金などは通信費、事務所を維持するための家賃や駐車場代は地代家賃です。
事務所で仕事をしていて発生する水道代や電気代、ガス代は水道光熱費として経費計上できます。
ただし、通信費や家賃、水道光熱費は、個人事業主の生活費と事業費の境界が特に曖昧になる項目です。合理的な家事按分を行って、適切な金額で費用計上を行う必要があります。
消耗品や交通費
筆記用具や机、椅子、コピー用紙やインク代など、事務所や営業活動で使用する消耗品は、経費の中でも消耗品費という分類です。
基本的には10万円未満の物品が消耗品費として扱われるため、10万円以内に収まりさえすれば、一見消耗品には入らなさそうなパソコンやタブレットも該当します。
事務所で使用するプロジェクターや応接室の大型ソファなど、大型事務用品の中には価格10万円以上の物品がありますが、1年未満で使用し終わるものは消耗品費として計上してかまいません。
個人事業主や従業員が仕事で移動する際に発生した交通費や、出張先の宿泊費用は、旅費交通費として計上されます。この際、移動の目的と取引先名、どこからどこまでを移動したのかは記録しておきましょう。
パソコンや車両などは減価償却費
10万円を超えるパソコンやタブレット、車両などの高額で長期間にわたって使用できるものは、減価償却費として計上します。
減価償却費とは、他の経費のように一度で経費計上するのではなく、耐用年数の期間内で毎年決まった金額を計上していく費用です。
ちなみに青色申告をしている個人事業主であれば、30万円未満のパソコンなどは『少額減価償却資産の特例』を使うことができます。これにより、減価償却を行わずに一括での経費計上を選ぶことも可能です。
この少額減価償却資産の特例は、2006年4月1日から2022年3月31日までの間に購入した物品に対して適用できます。物品購入した年度に収入が多く発生した場合、利益を小さくして節税するためにこの特例を活用してもよいでしょう。
個人事業主の経費
注意が必要な経費にできない支出
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事業に関係する支出のうち、ほとんどの個人事業主に当てはまるような代表的な経費の項目について解説してきました。次に、一見経費に思えるものの、実際は経費として認められない項目についても把握しておきましょう。
税金・社会保険料
税金のうち所得に対して課税されるものは経費になりません。なぜなら、それが経費になると一生税金の計算が終わらないからです。
一方で、それ以外の税金は経費になります。例えば、不動産事業の場合の固定資産税や機械装置や器具備品の簿価に課税される償却資産税は経費になります。
ただし国民年金・国民健康保険料は、確定申告の際に『社会保険料控除』として所得控除の対象になります。
専従者給与以外の家族への給与
個人事業主の場合、家族を従業員として雇い、給与を支払っているケースがあります。個人事業主と同一生計の場合は家計が同じと解釈するため、経費計上ができないことに注意が必要です。
しかし青色事業専従者給与の規定に従い、届け出をしている場合は特別に家族への給与を経費にすることが認められます。
従業員が同一生計の配偶者か、15歳以上の家族・親族であることと、経費計上する年の原則6カ月以上は仕事をしているという条件を満たしていれば、給与の支払いも経費扱いになるのです。
事業に関係ない支出
事業に関係ない支出は当然ながら経費になりません。個人事業主は個人と事業の境界を作るのが難しく、生活費と経費の線引きが曖昧になることがあるため注意しましょう。自分のための支出を経費にすることは不正です。
事業主は、事業用の財布も個人の生活費用の財布も一つになっているケースが多いでしょう。事業が黒字の際は個人の生活費を増やし、事業が赤字であれば個人の貯金から持ち出すという会計をするケースもあり、これが境界を曖昧にする原因です。
会計では『事業主勘定』という項目があり、事業用資金を個人口座に移せば『事業主貸』、個人の生活費を事業用に充てる場合は『事業主借』として処理し、事業と個人の支出を明確に分けています。
区分が曖昧な支出は、事業用と個人用で預金口座を分けたりクレジットカードを分けるなど整理することをオススメします。
個人事業主も脱税した場合はペナルティがある
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事業が大きくなり、利益を出せば出すほど課される税金は大きくなります。節税したいという気持ちはごく自然なものですが、不正な方法で税金を逃れるのは脱税です。
税務調査が入り、脱税が発覚すればどんなペナルティがあるのかも、念のため知っておきましょう。
個人事業主でも税務調査の対象
税務調査というと、大きな利益を出している法人だけが対象のように思われがちですが、個人事業主でも十分調査対象になり得ます。税務調査は国税局によって行われており、職員が納税者を訪問して、税務申告に不正がないかをチェックします。
不正計上と認定された場合のペナルティ
税務署が不正計上と判断した場合、内容に応じたペナルティが発生します。申告していた税額が本来よりも少ない税額だった場合は、納めるべき残りの税金に10%加算して追徴課税される『過少申告加算税』のペナルティです。
本来発生していない経費を計上したり、領収書やレシートを偽造したりして経費を水増しした場合は、悪質な行為とみなされて『重加算税』という重いペナルティが課せられます。
追徴課税は35%となり、税金を小さくするつもりが逆に大きな負担となるのです。
まとめ
個人事業主なら、基本的な経費の知識と計上の条件は押さえておきましょう。支出のうち何が経費として認められるのかを理解し、経費計上するメリットとデメリットを認識しておくことが大切です。
経費の意味と計上における注意点を知り、正しい会計を心がけましょう。