この記事では必要経費の計上や控除を活用する方法、節税で注意すべきポイントを解説します。節税のやり過ぎには注意し、ルールの範囲内で積極的に実践することが重要です。
もくじ
個人事業主の税金と納税額の決め方
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個人事業主には、最大4種類の税金が課税されます。それぞれの基礎知識や税額の決まり方を覚えておきましょう。
所得税の計算方法
1年間の所得に対して課される税金が所得税です。所得税を計算するためには、いくつかの段階を踏んで課税所得を導き出さなければなりません。
そもそも所得とは、収入から経費を差し引いたものです。個人事業主の場合は、主に事業で得た収入から、事業を営む上で支払った必要経費を差し引き、所得を算出します。
収入から経費を差し引いて割り出した所得金額からは、基礎控除や医療費控除などの所得控除のうち、あてはまるものがあれば差し引くことが可能です。
所得金額から全ての控除を差し引くと、課税所得が算出されます。課税所得額に応じた所得税率を課税所得に掛けて、そこから課税所得金額に応じた控除額を引くと、所得税額が導き出せます。
課税所得額に応じて住民税が決まる
住民税とは、都道府県民税と市町村民税の総称です。どちらの税金も、『均等割』と『所得割』で構成されています。
均等割は、所得金額に関係なく一定の金額を課税される部分です。都道府県や市区町村ごとに、均等割の金額は異なっています。
所得税と同様、課税所得額に税率を掛けて導き出す部分が所得割です。所得割の税率も自治体ごとに異なります。多くの場合、都道府県民税と市町村民税の税率の合計は10%です。
課税所得は、所得税だけでなく住民税の一部にも関わっています。課税所得を少なく抑えれば、所得税と住民税のどちらも節税することが可能です。
個人事業税の納付対象と計算方法
個人事業税は、都道府県に納める地方税の一つです。特定の事業を営んでいる個人事業主には、個人事業税が課税されます。個人事業税の金額を算出する計算式は、『(課税所得-事業主控除)×税率』です。
課税所得は青色申告特別控除を差し引く前の金額を用います。また、営業期間が1年以上の場合、事業主控除額は290万円です。営業期間が1年に満たない場合は、営業月数に応じて定められた控除額を差し引きます。
課税所得が290万円以下なら、控除後の金額は0円以下になるため、個人事業税は課税されません。税率は業種により異なり、課税対象となる業種の全てに3~5%が設定されています。
課税事業者は消費税の納付が必要
事業売上に消費税が含まれる場合は、消費者や取引先から預かった消費税の金額を申告し、納税しなければなりません。消費税を納税する義務がある個人や法人を『課税事業者』といいます。
『課税期間の前々年度』または『前年の1月1日~6月30日』のどちらかで、課税売上高が1,000万円を超えていれば、課税事業者として消費税の納付義務が発生します。
開業1年目の場合は、課税事業者かどうか判断する期間が存在しないため、課税売上があっても消費税を納付する必要はありません。開業2年目なら、前年の1月1日~6月30日のみが、判定の対象となる期間です。但し、この場合であっても課税事業者選択届出書を提出することによって課税事業者になることは可能です。
開業時に設備投資が必要な、飲食店や美容室などを始める場合は、あえて課税事業者を選択して、消費税の還付を受けることで資金繰りをよくすることが出来ます。
納付する消費税の金額は、原則課税方式と簡易課税方式のどちらかで計算します。対象期間内の課税売上高が5,000万円以下なら、より簡単に計算できる簡易課税方式での算出が可能です。
個人事業主の効果的な節税策とは?
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個人事業主が行いやすい節税対策を紹介します。経費を使うことと控除を活用することは、より高い効果を期待できる方法です。
経費を使う
個人事業主が行える効果的な節税対策として、より多くの経費を計上することが挙げられます。経費が多いほど課税所得が減るため、所得税や住民税の節税につなげることが可能です。
事業に関わる費用のうち、売上に関連するものは、基本的に全て経費として計上できます。仕入れや人件費だけでなく、事業で使う消耗品費、取引先との飲食費、事業のために移動した際の交通費なども、経費とすることが可能です。
ただし、節税のために経費を使い過ぎると、その分だけ事業資金も少なくなります。節税にこだわり過ぎず、納税額を抑えながら上手に経費を使うことが重要です。
控除を活用する
各種所得控除を活用することでも、節税につなげられます。所得控除の合計金額が多くなるほど、課税所得金額は少なくなるため、所得税や住民税を減らすことが可能です。
主な所得控除には、扶養控除・医療費控除・寄附金控除・生命保険料控除・地震保険料控除・障害者控除があります。
所得控除は、条件を満たせば自動的に差し引かれるものではありません。適用条件にあてはまる控除があれば、自分で確定申告を行うことで控除の適用を受けられます。
控除にはさまざまな種類があり、中には適用条件を満たしているにもかかわらず、控除を受けられることに気づきにくいものもあります。個人事業主が利用できる主な控除を知っておくことが大切です。
個人事業主が実践できる
経費を活用した節税方法
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個人事業主が実践できる効果的な節税対策のうち、経費を活用した方法を解説します。経費計上できるものや家事按分について、理解を深めておきましょう。
漏れなく必要経費を計上
所得税や住民税は、課税所得金額を減らすことで節税できます。課税所得は事業収入から必要経費を差し引いて算出されるため、必要経費の金額が多いほど課税所得金額が少なくなる仕組みです。
会社員の場合、所得税の計算は会社側で行うため、給与所得からさらに経費を差し引くことは基本的にできません。しかし、個人事業主の代表的な所得である事業所得は、自分で経費を差し引くことが認められています。
個人事業主が課税所得を申告するために行う確定申告では、できるだけ多くの必要経費を計上するのが基本です。ただし、支出の中には経費にできないものもあるため、個人事業主が経費にできるものをきちんと理解しておく必要があります。
個人事業主の経費になるもの
基本的に、事業を営む上で使った費用のうち「必要経費」が経費として計上できます。支払ったかどうかは別(未払でも経費になります)となり全てではなく、所得税法における「必要経費」に当てはまるものが経費です。(しかし、必要経費の定義はない)事務用品などの『消耗品費』や、打ち合わせなどで発生した『交通費』は、代表的な経費です。
打ち合わせの際に支払った飲食費は『会議費又は交際費』、個人事業税や固定資産税は『租税公課』、名刺・チラシなどの制作費は『広告宣伝費』として経費にできます。
事業で使用する車の購入費用・維持費・税金、事業で使う建物の火災保険料・地震保険料、事務所の水道光熱費など、自家消費分を除いて経費で落とせる費用です。一方、事業主自身に課される所得税・住民税や、自分の健康診断費用など、経費にできないものもあります。
家賃や光熱費は家事按分を
個人事業主の場合、自宅で仕事を行っている人も多いでしょう。自宅の家賃や水道光熱費は、家事按分することで費用の一部を経費計上できます。
自宅の1室を事務所としているなら、例えば自宅の延べ床面積に対してその部屋が占める割合分の家賃を経費にできます。電気料金の場合は、使用時間を考慮しての按分が可能です。
インターネット代・電話料金などの通信費や、固定資産税・住宅ローンの利息・火災保険料なども、家事按分できる費用の対象となります。
これらの費用を按分する際は、合理的に説明ができる割合で按分しなければなりません。割合の根拠を説明できなければ、万が一税務署の調査が入った際、申告内容の修正を求められることがあります。
個人事業主が利用できる控除
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節税効果が高い所得控除の中でも、代表的なものを以下に紹介します。利用できるものがあれば、積極的に検討しましょう。
青色申告特別控除を受ける
確定申告の種類には、白色申告と青色申告の二つがあります。青色申告は、処理面で手間は増すものの、節税につながる多くの特例が設けられた申告方法です。
青色申告の特例の中でも『青色申告特別控除』は大きな節税につながります。複式簿記による帳簿記帳を行い、e-Taxを利用して申告をすれば、65万円の控除を受けられる制度です。
e-Taxを使用した申告でなくても、複式簿記で記帳を行っていれば、55万円の控除を受けられます。簡易簿記による記帳なら控除額は10万円に過ぎません。
白色申告には、このような特別控除制度は設けられていません。青色専従者給与の特例や30万円未満の資産の一括経費算入など、青色申告のその他の特例も確認しておきましょう。
小規模企業共済への加入
個人事業主の節税対策として、小規模企業共済への加入も検討してみましょう。小規模企業共済とは、自由に設定した金額を積み立て、退職金や年金の形で将来的にお金を受け取れる制度です。
掛金の月額は1,000円から7万円の範囲で選べます。支払った掛け金の全額が所得控除の対象となるため、将来のためにお金を貯めながらの節税が可能です。
将来もらえる共済金の受取時にも、その方法に関係なく税制上の優遇措置を受けられます。いつでも貸し付けを受けられるため、資金繰りが苦しくなった際に掛け金の範囲内で手許資金を増やせることもメリットです。
家族の分も社会保険料控除を受ける
個人事業主が支払う自分の国民健康保険料や国民年金保険料に関しては、確定申告により社会保険料控除を受けられます。払い込んだ保険料の全額を、所得金額から控除できる制度です。
生計を共にしている家族がいるケースで、家族の分の国民健康保険料と国民年金保険料を事業者が負担している場合は、家族の保険料も社会保険料控除の対象となります。
社会保険料控除の対象となる保険料の金額は、実際にその年に納付した金額です。過去に保険料を滞納していても、その年に支払っている分があるなら、その年に支払った保険料として扱えます。
社会保険料は大きな金額になりやすいことから、控除を受ければ節税効果もより高まります。家族の分も支払っているなら、忘れずに申告しましょう。
事業以外の節税も実践しよう
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経費の計上や控除の利用以外でも、節税につなげられる方法があります。代表的な節税対策として知られる、ふるさと納税とiDeCoについて解説します。
ふるさと納税を活用
ふるさと納税は節税対策ではありませんが返戻品がプラスにはなるため活用するとお得です。
ふるさと納税とは、応援したい自治体に寄附を行い、地元の特産品などを返礼品として受け取れる制度です。
ふるさと納税で寄附すると、寄附金額のうち2,000円分を除いた全額が、控除限度額の範囲内で寄附金控除の対象となります。個人事業主の控除上限額の目安は、住民税決定通知書に記載されている住民税所得割額の約2割です。
個人事業主が寄附金控除を受けるためには、寄附後に送付される寄附金受領証明書に記載されている金額を、確定申告書の寄附金控除欄に記入する必要があります。
iDeCoで将来への備えも
iDeCoとは、自分で設定した掛け金を毎月支払い、資産運用しながら老後資金を貯められる私的年金制度です。正式名称を『個人型確定拠出年金』といいます。
さまざまな税制上の優遇措置を受けられる点が、iDeCoの大きな魅力です。積立期間中は、毎月の掛け金の全額が所得控除の対象となります。運用期間中に利益が出ても、通常約20%発生する税金が非課税です。
iDeCoの金融資産は、年金または一時金の形で受け取れます。どちらの方法で受け取っても、公的年金等控除や退職所得控除の税制優遇措置を受けられます。
節税のやり過ぎに注意
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節税を意識して経費を計上する際は、節税のやり過ぎに注意しなければなりません。特に気を付けたいポイントを解説します。
融資を受けづらくなるって本当?
より多くの経費を計上できれば、課税所得が減ります。ただし事業運営が困難になることのないよう過度の節税には十分に注意しましょう。
節税しすぎると銀行などの金融機関から融資を受けづらくなるという話を良く聞きますが、融資を受けられるかどうかの基準は損益の状況だけではありませんので融資を受けられない事はありません。融資は過去の実績だけでなく、将来借りたお金を返せるかどうかも重要になってきます。
税務調査の対象になる場合も
経費の中に不審な数字があると、税務調査に入られる可能性があります。事業収入と釣り合わない金額が接待交際費として計上されていたり、家賃の全額を経費にしていたりする場合は要注意です。
税務調査の対象になると、調査を受けるきっかけとなった経費だけでなく、他の経費にもチェックが入ります。全ての経費に合理的な説明ができなければ、不正申告とみなされてペナルティを科されることもあるでしょう。
一度税務調査で重加算税を受けると、税務調査の頻度が上がります。経費を計上する際は、節税を意識するあまり無理がある数字にならないようにしなければなりません。
まとめ
個人事業主は、課税所得を減らすことで、所得税や住民税を節税できます。課税所得を少なくできる主な対策は、経費の計上と控除の活用です。
ふるさと納税やiDeCoなど、事業に関係すること以外にも節税できる方法があります。節税のやり過ぎに注意しながら、より効果的な対策に取り組みましょう。