起業革命―「スタートアップ」のプロが伝授する事業創出のノウハウ
という本を紹介します。
この本は、いわば起業ナビと同業である、株式会社エムアウトの事業開発グループの著作です。
同業他社の本を紹介するなんて、「起業ナビさん、太っ腹!」ということではなく、これから起業する方、新規事業を検討中の起業家・経営者にとって、貴重な情報や事例が沢山載っている本なので「紹介せずにはいられない」と思い、ご紹介させて頂きます。
起業支援の仕事をしていると、「起業したいけど、アイデアや起業テーマがみつからない」という方からのご相談を沢山受けます。
私はアイデアの有無の問題は、起業においてさしたる問題ではないと思っていますが、当の本人にとっては、重大な問題です。(私の言っていることは起業した後にはご理解頂けると思います。)
この本では、「マーケットアウト」という起業テーマの考え方を提示し、説明しています。
説明に際しては、実際に起業されている事業を事例に上げて説明していますので、非常に解りやすい内容になっています。
以降では、起業革命で説明されている「マーケットアウト」という考え方を私なりの注釈を加えてご紹介させて頂きたいと思います。
■「マーケットアウト」とは
マーケットアウトとは、「顧客の視点」でビジネスを考えていこうという考え方です。
世の中が求めているモノやコトを消費者の視点から生み出していくことです。
例えば、アップルのipodは、自分の音楽ライブラリーの全てをいつでも持ち歩きたいという考え方から、大容量のハードディスクに音楽再生機能を付けて小型の音楽プレイヤーを開発し販売しました。
その反対がプロダクトアウトという考え方です。
「供給側の視点」で、「顧客に売り込んでいく」考え方です。
例えば、ソニーのウォークマンは、これまでに無いほどの(当時としては)超小型の音楽プレイヤーを開発販売した結果として、街なかで音楽を聞くというライフスタイルを生み出しました。これはプロダクトアウトの考え方に当たります。
これはウォークマンはダメでipodが素晴らしいということが言いたいわけではありません。(ウォークマンなくしてipodはない、ということに異論のある方はいらっしゃらないでしょう。)
言いたいことは、「作れば売れる」と言われた右肩上がりの時代の考え方と、「作っても売れない」時代に必要な考え方との違いを理解して、対応する必要があるということです。
■言うほど簡単ではない「マーケットアウト」
しかし、世の中のビジネスを見渡してみると、「マーケットアウトの考え方に基づきやっている風のプロダクトアウトのビジネス」が沢山あります。
この本の中でも、
マーケットアウトの発想で事業を創出したはずなのに、事業を進めるうちにいつの間にかプロダクトアウトビジネスになっていた、ということが起こってしまうのです。
と紹介されています。
そこで、「マーケットアウト」の思想を貫いていくためのキーワードが5つ紹介されています。
1.マーケット起点
2.購買代理店
3.オープンポリシー
4.持たざる経営
5.クロスファンクショナル
それぞれ簡単に紹介していきたいと思います。
■マーケット起点
「マーケット=ターゲット×ニーズ」 ターゲットとは特定の顧客の集団、ニーズとはターゲットが抱えている不便や不満等と言い換えることが出来ます。マーケットアウトビジネスはマーケット起点の事業ですから、まずマーケット、つまりターゲットとそのニーズをセグメントすることが何よりも肝心です。
ランチェスター戦略でも言われるように、中小企業が成功するためには、顧客ターゲットを絞ることが重要です。顧客ターゲットを絞り込めば絞り込むほど、そのニーズも絞りこまれます。その結果として、濃いニーズに対応した濃い商品・サービスを提供することが可能になります。それが顧客の個客化を促進し、いわゆる「ファン化」を通じて、ターゲットの範囲を変更せずに量的拡大を進めていくことが出来るのです。
マーケット起点とは、こうした考え方を、徹頭徹尾とり続けるということです。
■購買代理店
購買代理店とは、(中略)モノやサービスを調達するという仕組みを考えるのではなく、顧客が欲しいモノやサービスを調達するという仕組みです。
「売る側ではなく買う側に立ってビジネスを見る」
マーケットアウトの発想には「売り込み」という概念はありません。顧客が欲しい物を提供する。いわば「買って頂く」ということなんだと思います。
「買って頂く」ためには、顧客が欲しがる商品・サービスの提供が不可欠です。
顧客抱えている課題を解決する商品・サービスを、その課題に見合った価格で提供することができれば、「買って頂く」ことが可能になります。
■オープンポリシー
オープンポリシーとは、その名のとおり情報を開示する、というスタンスです。
マーケットアウトビジネスが優先するのは、顧客の都合であり利益です。マーケットアウトの発想では、顧客の利益になることはすべてオープンにするべきで隠さなければならない情報自体が存在しない、ということもいえるのです。
この本でも触れられていますが、インターネットの普及によって、売る側と買う側との情報格差がほとんどなくなりました。これにより、売る側は情報格差を利用して高く売りつけることが不可能になったわけです。
しかし、面白いのは、それでも安い会社だけが売れているわけではないことです。高い理由、高くても元が取れる理由があり、それに顧客が納得すれば取引は成立します。そうして、値段が高いのに、値段の安い同業他社よりも業績の良い会社がたくさんあります。これらの会社に共通して備わっているのが、オープンポリシーだと私は思います。
これから起業しようという人は、そういう会社に目を向ける必要があります。
■持たざる経営
マーケットアウトを実践し続けるためには、持たざる経営に徹することが欠かせません。 なぜなら、企業が常にマーケットの都合を優先できる状態を保つためには、可能な限り自社都合を作らないこと、つまりマーケットの都合に合わせ柔軟にビジネスモデルの変更が出来ることが重要となるからです。
顧客の求める商品・サービスは、経営環境の変化に伴って、常に変化し続けます。マーケットアウトの発想でビジネスを継続するためには、こうした環境変化に対応する必要があります。組織が官僚化し、設備を自前で調達してしまうと、こうした変化に対応するための足枷になります。
持たざる経営は、短期的には割高なコストの原因になります。しかし、中・長期的な環境対応を考えると、結果的に最適な投資にもなり得ます。マーケットアウトの考え方は継続していくためには、中・長期的な視点が欠かせないということです。
■クロスファンクショナル
マーケットアウトビジネスでは、ターゲットを特定し、そのターゲットに提供するサービスを多角化することで事業を成長させていくのです。
プロダクトアウトビジネスにおいては、収益性を高めるためには業界や特定の分野のプロになることこそが重要でした。一方マーケットアウトビジネスでは、マーケットのプロになることがビジネスの可能性を広げることになるのです。
良く知られている話ではありますが、一つの商品を、複数の新規顧客に販売するより、一つの顧客に、複数の商品を提供する方が、効率的で利益を上げやすいということがあります。マーケットアウトビジネスは、顧客のリピート化を戦略的に促進する理由を与えてくれます。
しかし、スタートアップによくある特定の顧客に依存する状況を促進するという意味で捉えないようにして頂きたいと思います。特定すべきはターゲットであり、特定の顧客に依存して不安定な経営になることを推奨する意味ではないはずです。
■まとめ
もっと詳しく知りたい。理解したいという方は、是非、この本を手にとってご一読下さい。
実際の本の中には、具体的な会社・実例を上げた説明が入っていますので、私の記事よりも頭に入ってくるとおもいます。
文中にも書きましたが、ランチェスター戦略などとも通じる部分が沢山あります。
切り口は色々あれど、起業家、スタートアップが考えなければいけないことは同じということが言えると思います。
起業ナビとしては、こうした色々な切り口を紹介しつつ、より抽象化した言葉で、起業のコツをお伝えしていきたいと思います。
※この記事は2012年3月末現在の法令等に基づき作成されています。